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水戸学の大家が記した日本人への“処方箋”
国会が「言論の府」としての機能を取り戻すには、何が必要なのだろうか。先崎氏は、歴史の中にそのヒントを見出す。
「日本の歴史上、今日のように情勢が一気に変化し、社会が動揺したのが幕末。志士たちに読まれた著作に『新論』というのがあります。水戸学の思想家、会沢正志斎(あいざわ・せいしさい、1782-1863)が書いたこの本は、大きく言えば2つの部分に分けられる。激変した当時の国際情勢について書いてあるのですが、実はそれは著作の後半に置かれている。
では前半は何が書かれていたのか。答えは『日本はどういう国であるか、あるべきか』という大方針でした。つまり現状を分析する前に、『そもそも国家の機軸とは何か』に立ち返ることで、当時の知識人たちは、それぞれの政治行動の指針を得たのです。
今の日本社会で行われているのは、“煮詰まった会議”みたいなものです。みんなが言いたいことを言い合って、何を軸に話し合っているのか分からない。だから、議論に順位付けできず、気付いたら本筋から離れて些末な議論をしている。
『新論』で幕末の志士が原点に立ち戻ったように、国会で本当に話し合うべき国事とは何なのか、原点に立ち戻ってもらいたいと思います。未来の子どもたちが、過去最長の在任期間を更新した前後にその首相が何をしていたか調べたら、『シュレッダーをかけた、かけないで揉めていた』というのでは、あまりに悲しいですから」