一体、この1カ月間は何だったのか――。臨時国会が閉会した12月9日、記者会見の場に立った安倍首相は、野党に追及されている「桜を見る会」問題について、これまで通りの説明を改めて繰り返した。
「公費を使う以上、これまでの運用を大いに反省し、今後、私自身の責任において全般的な見直しを行っていく」
一方の野党も、11月8日の共産党・田村智子参院議員の質問にはじまり、舌鋒鋭く政権を批判、メディアを巻き込んで議論を大いに盛り上げたが、次の一手を打ち出せない。与野党ともに自らの主張を繰り返すばかりで、議論が空転し続けたようにも見える。
「『この騒動は何だったのか』と、国民が思うのも無理はありません。騒がしかっただけで、実は1ミリも社会が動かない。この状態は、この数年の日本社会の言論状況を象徴しています」
そう語るのは日本大学危機管理学部教授で、日本思想史が専門の先崎彰容氏だ。
「SNSが普及し自分の意見を簡単に表明できる時代になって、情報にアクセスできるまでの時間、意見を表明するまでの時間がどんどん短くなっている。その結果、今、私たち国民をふくめ、メディアも深い議論をせず、いかに素早く反応できるかだけが問われるようになってしまった。
すると、口にするのは『意見』ではなく、単なる感情的な好悪にすぎなくなる。今の日本は不祥事が起こると、国民もメディアも『感情』を意見と勘違いしてしまうのです。でも、結局は『好き嫌い』の話ですから、議論はかみ合いません。一見、話し合っているように見えても、みんな“撃ちたい方向に銃を撃っている”だけで、話はかみ合わない。
さらに、どちらにも与しない『無党派層』にとっては、感情的な『お決まりの意見』にしか聞こえませんから既視感しかなく、そのまま数週間もすれば、次の話題に移ってしまうのです」
安倍政権が憲政史上最長になった理由
『違和感の正体』『バッシング論』(ともに新潮新書)などの著作で、社会批評を手掛けた先崎氏は、憲政史上最長の在任日数になった安倍政権を生み出した言論状況について、次のように分析する。
「1990年代にインターネットが世の中に広がり、2000年代に携帯電話が、2010年代に入るとスマートフォンやSNSが広まっていった。第2次安倍政権が成立したのは2012年12月。まさにネット社会が定着して、世の中が『好き嫌い』の感情を表出する時代になったタイミングです。
何かスキャンダルが起こっても、頭を伏せて銃撃戦がやむのを待っていれば、自然に話題が次へと移っていった。もちろん政権内部の権力基盤を強化し、中心メンバーが結束して政権を運営している安倍政権特有の強さもありますが、この時流に乗ったという側面は大きいと思います。『桜を見る会』の一件もその流れに乗っているのです」