今、ここで売りたい本を
岩手県内に10店舗ほどを展開する地域チェーンさわや書店グループは、年に1回、「さわベス」という、前年に発行された本の中から、ベスト本を決めている。各店舗のスタッフが自分の推したい本を持ち寄って居酒屋で深夜まで討議して決める選書がユニークだ。「さわベス2015」文庫部門の1位は、ナウルという島国の歴史をかわいいイラストとシンプルな文章で描いた本。ベスト10を見ても、ノンフィクションも小説も、歌集もありのノンジャンル。固定観念にとらわれず、スタッフが楽しんで選んでいるのが伝わってくる。
「さわベス」で選んだ本は、1年間店頭で展開し、田口店長が定期的に出演している地元ラジオ番組で紹介したり、地域の新聞・雑誌で取り上げてもらったりして、反響も大きい。毎年楽しみにしていてお買い上げいただくお客様も多いという。
『アホウドリの糞でできた国』は、店内の数カ所に積んでいたが、店頭の地元本のコーナーには、地域の再生を描いた小説『限界集落株式会社』(前回 伊東文具店の伊東会長オススメ本)と併売していた。ナウルという遠い外国の話ではなく、今、この岩手の地元の本として売りたいという気持ちが込められる。さわや書店フェザン店が郷土本を応援する気持ちは強い。今回、「さわベス」には、「書籍部門郷土賞」という特別賞が設けられ、増田寛也元岩手県知事の『地方消滅』を選んだ。店頭の熱い推奨、イベントやラジオでの紹介を通じて、対極的な主張の『地方消滅の罠』と合わせて、数千冊単位、日本一売っている。
東日本大震災でのご遺体の復元ボランティア活動の記録『おもかげ復元師』には、『ある小さなスズメの記録 人を慰め、愛し、叱った、誇り高きクラレンスの生涯』を並べる。命の尊厳を語るのにこれ以上の組み合わせがあるだろうか。
パネルを付けてオススメする本は、必ずしもその時の新刊ではない。スタッフがある本を仕掛けたいと言ってきたときには、なぜ売りたいのか、いつ売るべきなのか、どんな本と並べて売るのか、徹底して話を聞くという。今、ここ、さわや書店フェザン店で買った本が、その読者にとって大切な1冊になる、そんな付加価値のある本屋さん。また東北を旅するときには寄らせてもらいます。
【本の話WEB読者にオススメ】
田口店長のオススメ本は、笹原留似子さんの『おもかげ復元師』(ポプラ文庫)。なぜオススメかは、POPというにはあまりにも大きなパネルに書いてあることがすべてという。何が書いてあるか気になる方は、ぜひ、新幹線で盛岡に行って、店頭でじっくり読んでくださいね。
さわや書店フェザン店
住所:岩手県盛岡市盛岡駅前通1-44 フェザン南館1F
営業時間:9:00~21:00
URL:http://www.fesan-jp.com/fesan/shop/shop124.html
Twitter:https://twitter.com/SAWAYA_fezan