エロ本……。ネットが普及してからというものエロ本を読んでいる人をめっきり見かけなくなり、エロ本自体に一種のノスタルジーさえ感じるように(草むらとセットで)。モノっていうのはこうやって物語を背負っていくものか……なんてちょっと感傷的になりましたが、今回はネットが普及する前、エロ本と男(当時19)のお話になります。
1995年、バンドマンでジミヘンのようなルックスをしたD君は、大阪は高槻の実家住まいながらに自分の部屋にはたくさんのエロ本を隠し持っていたそうです。
ジミヘンのようなルックスとは裏腹に几帳面な彼。壁一面の本棚には、彼なりにエロ本を機能的に収納しており(ただ雑誌の種類別に並べるのではなく、こういうのを見たら次はこういうエロが見たい、という自分なりの流れを汲んだ収納)、その貯蔵量、そしてそれらが一切親にバレない完璧な収納法と、D君はその一角を「エロシステム」と名付けて一人悦に入っていたそうであります。
しかし……とある冬の朝、グラグラグラア! と彼のエロシステムが揺れに揺れた。そう、阪神大震災であります。ただ崩れただけならいいものの、エロシステムはベッドの隣に構築されていたため、彼は本棚から崩れ落ちてきた無数のエロ本の下敷きに。
おっぱいやお尻だらけの中唖然としていたら、子を心配したD君の母親が「大丈夫!?」とダッシュでD君の部屋へ……。
「もう終わりだ、怒られるか、呆れられるか……」とD君は観念したそうですが、おびただしい数のエロ本の下敷きになった息子を見てしまった母親は気が動転。「朝ごはん何がいい!?」と全く関係ないことを聞いて去って行ったそうで。人間動揺すると、取り繕おうとして余計おかしなことを言ってしまうのですね、愛らしい。
とまあ、非常にくだらないエピソードなのですが、震災でどうやっても暗くなってしまう中、「俺のエロシステムが」と慌てる彼の姿は友人たちに笑いをたくさん届けたのでしょう。このD君、実は夫の大学の先輩の話なのですが、夫もたくさん笑わせてもらったそうで。うーむ、スケベってのは時に人を癒すものですね。スケベって生命力に満ち溢れているってことですから、人を前向きにさせる力があってもおかしくはない。
今はもうこういう話もほとんど生まれなくなってしまったのでしょう。これはもう、D君には悪いけれど古きよき日本昔話として語り継がねばならない、私と夫はそんな使命感に燃えているのであります。