「不公正貿易終わらせる」
「為替操作国を処罰する方策を検討している」

 トランプ政権が発足して2カ月余り。公約とした貿易不均衡の是正を目的とする発言が続いている。

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 金融市場はトランプに期待する相場に陰りが見られているが、私には為替への懸念が拭えない。「円は可哀想な通貨」ということが頭にあるからだ。

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 4半世紀にわたり、金融市場を相手に仕事をし続けてきたが、円相場の方向性を考える時、切り口としてきたのが次の言葉だ。

「不憫で同情に堪えない通貨、それが円である」

 それは一体どういう意味か?

金利さえ見ていれば為替相場はわかるのか?

 株式市場で今、「円安=株高」という等式が成り立っている。長いデフレの中、かろうじて競争力を保つ輸出製造業の収益にプラスである円安が株高の原動力と認識されているからだ。

 しかし、80年代バブル期には「円高=株高」が当然視されていた。“円高・株高・債券高のトリプルメリット”が大手証券によって喧伝され、金融市場は踊っていた。

 当時の強い輸出製造業の競争力をベースとしながら、消費・投資による内需拡大を加速させるには円の相対的価値は高まるのが良いという認識が出来ていた。

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「ジャパン・アズ・ナンバーワン!」「世界のどんなものでも買ってやる!」そんな意気込みが企業にも個人にもあったバブル期には“日本の何もかもが強い”ことは当然と受けとめられていたのだ。

「円もドルも通貨であることから金利の支配を受ける。つまり日米の金利差が為替の方向性を決定づける」

 ものの本にはこう書かれがちだが、これは現実の相場を見ていない“理屈”といえる。真のトレンドは決してそのように形成されない。

 為替相場というものは円をドルやユーロと交換する際のレート。つまり「関係」を示すものだ。関係というものは、人間同士や国家間を見れば分かるように、絶えず変化し掴みどころがない。だが関係がある限り力学は働く。その力学を想定することが重要になる。

 私は円ドルの方向性は“意思”によって決まると考えている。“意思”の織りなす力、正確には“意思の総合”ということになる。

アメリカ経済を方向付ける「3つの意思」

 客観的に見た日米関係は決して独立した国同士の対等なものではない。“日本はアメリカの属国である”という現実がそこにある。敗戦後、日本は防衛と外交を、好むと好まざるとにかかわらず、アメリカに丸投げして来ているし、海外の国際政治の専門家は皆そう見ている。そうであれば円ドル関係は“アメリカの意思”によって決まる力関係である。

 アメリカには3つの意思がある。1つは米国政府の意思。2つ目はFRB(米国連邦準備理事会)の意思。そして米国産業界の意思。3つを総合したものがアメリカ経済そのものの意思だ。為替市場は常にその“意思の総合”が望む方向で円ドルレートを決めて来たのだ。意思の総合がどのようなものかを読み解けば対ドルで円高か円安かの方向性は分かる。

 それは歴史を見れば明らかだ。昭和46(1971)年のニクソン・ショック。昭和60(1985)年のプラザ合意。それぞれを契機として強烈なドル安・円高が起きた。

 そこには「日本経済を壊滅させても構わない」というそら恐ろしい“意思”さえ感じられた(それを克服するだけの力が当時の日本経済にあったことに隔世の感を覚える)。

 アベノミクスによる円安は日銀が異次元緩和に踏み切ったからと見るのは本質を誤っている。自民党から政権を奪った民主党(当時)のあまりの酷さに、ほとほと愛想が尽きていた米国政府が、政権を奪還した自民党をサポートする“意思”を固め、ボロボロの経済状態の日本に円安を容認したと見るべきなのだ。

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トランプ次第で「円」は翻弄される

 ではここからの円ドル相場はどうなるか?

「トランプに力あり」と市場に認識され、「ドル安は米国の利益」とトランプが強く言えば円高トレンドは必至となる。

「トランプに力なし」と市場が認識すれば幕間つなぎでの円安は実現するだろう。そして次にやって来る最悪のシナリオは……

 トランプ政権がこのまま機能不全となり、米国経済そのものが混乱することだ。

 そうなると円は避難通貨として買われ、強烈な円高となってしまう可能性が高いのだ。

 かつて「世界で最も重要な2国間関係」といわれた日米関係。日本にとって米国の重要度は今も変わらない。

 その関係に翻弄されやすい通貨「円」はかように可哀想な通貨なのだ。