ノンフィクション作家の奥野修司さんが東日本大震災で家族を亡くした人々の霊体験を取材した本『魂でもいいから、そばにいて』(新潮社)が読まれている。2月の末に発売され、1月で6刷を重ねた。

「被災地の方々からは、自分達の霊体験が話しやすくなった、という感想をいただいています。津波に流された祖母に会った、などと迂闊に言おうものなら頭がおかしくなったと思われるんじゃないか、という屈託があるんです」

 奥野さんがこの取材を始めたのは、仙台で終末医療を拓いた故・岡部健医師の薦めによる。他人による追体験が不可能な話はノンフィクションにふさわしくない、と躊躇したが、亡くした連れ合いの霊を毎晩十字路で待っているおばあさんの話に感動したこともあり、2013年から毎月の被災地通いが始まった。

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 亡くなった夫が布団の中に「子猫」のように入ってきた話など、全篇、人間味溢れる家族の愛の物語だ。

「単なる目撃談ではなく霊を見るようになるまでの過程を僕は知りたかった。それは家族のプライベートな領域に踏み込むこと。1人に3回はお会いして、気心の知れた仲になる必要がありました」

 南三陸町の避難所を訪問された天皇陛下が、4人の家族を亡くした人の前でしばらく動かれなかったくだりは1つのクライマックスだ。

「陛下のお声掛けをきっかけにその方は精神的に持ち直した。“寄り添う”ということ、僕のノンフィクション作家としてのあり方も、同じであらねばならない、と思いました」