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小田原だけで死亡者は4年間で5人……ユニクロ潜入ジャーナリストがアマゾンに警鐘を鳴らす理由――2019 BEST5

ジャーナリスト・横田増生さんインタビュー #2

2020/01/04
note

―――死亡者については、横田さんの本を読むまで知りませんでした。

横田 それを書いたのは僕と「赤旗」くらいです。アマゾンは都合の悪いことを書いたところには取材させなくなるので、なかなか追及が厳しいですよね。正面から取材させてくれればもっとはやく終わるのに、裏から裏から取材しないといけないから時間がかかる。

 

 前の広報担当者は電話には出てきましたけれども、最近は電話もでません。メールだけで全部お断り。仕方ないので、直接ジェフ・ベゾスに取材申し込みのメールをしたら、広報から「受けられません」みたいな返事がきました。まあ、本社の広報も聞いているとおもいますけどね。日本の広報に「こいつ大丈夫?」って。

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―――それで潜入するわけですね。「ユニクロ」は休憩室でのやり取りなどが面白かったですが、「アマゾン」は殺伐とした読後感でした。

横田 ルポは、そこにいる人から聞いた話があったほうが面白いのですが、アマゾンの倉庫だと人と話す機会がない。ユニクロは店舗だから、限られた人数が毎日顔を合わせて、言葉も交わしますけれども、アマゾンはひたすらハンディ端末と向き合って歩いているだけで。

 いちばん長い休憩時間は昼食の時間でしたが、そこでいきなり話しかけるのもちょっとハードルが高かったですね。広い食堂で誰かの隣に座って「いやー今日どうですか?」とはいかないでしょ。不審者過ぎると言うか(笑)。

 

ユニクロが「ろくでなし」なら、アマゾンは「人でなし」

――ルポには物流センターばかりでなく、目黒の日本法人本社や海外での労働環境の苛烈さも書かれています。

横田 アマゾンは、どこでもパワハラ体質の企業なんです。ブラッド・ストーンという記者が書いた『ジェフ・ベゾス 果てなき野望』にも出てくるし、僕の本にも出てくる話ですが、毎年一定数の人を切らないといけないっていう不文律がある。そういうノルマがあるから、その数に入れられる人たちは、いじめの対象になって不合理な目に遭い、自殺しようかっていう人も出てきますよね。

潜入ルポ アマゾン帝国

「ここから飛び降りろ」と言われた人もいるし、実際アメリカでは本社のビルから飛び降りた人もいます。幸運にも亡くならなかったけれども。取材していて思うのは、アマゾンの場合、どこで働いていても気が休まらないんじゃないか、ということ。物流センターであっても、目黒のアマゾンジャパンの本社であっても、シアトルの本社であっても。

―――そうした社風は、やはりトップの影響でしょうか?

横田 ユニクロは「ろくでなし」かなっておもったけども、アマゾンは「人でなし」という感じがしますね。ベゾスは人を追い詰めるタイプの経営者で、そういう意味ではユニクロの柳井さんも似てます。いつも危機感をあおって、社員を追い詰める。でもアマゾンのほうが陰湿で執拗じゃないかな。倉庫にいたらハンディ端末で時間に追われ、本社にいたら数字に追われ、毎年一定数の社員の首が切られ、過酷な会社ですよ。

―――そうした実態があまり知られていません。

横田 アマゾンで自由にものが言えるのは、ジェフ・ベゾスと副社長のジェフ・ウィルケ、AWSトップのアンディ・ジェシーの3人くらいです。彼ら以外はメディアには出てこないですし、出てきてもベゾスの言っていることを繰り返すだけですから。税金も払ってないこともほとんど知られてない。労働者が亡くなったことさえも知られてない。結局ほとんど何も知られていない。秘密主義で情報が出ないように囲ってきたわけです。