1兆円の大赤字決算が見込まれ進退窮まる東芝、そこまで追いつめられたのは原発事業の不振によるところが大きい。今週の文春(4月13日号)では「東芝“原発大暴走”を後押しした安倍首相秘書官 今井尚哉」と題して、原発事業の中心にいた人物のメモから、その者と安倍首相の秘書官との蜜月を明らかにしている。
肉筆メモと「京都長岡ワラビ採り殺人事件」
「きっかけは、筆者が入手した、ある東芝社員のビジネスダイアリーだった」。ジャーナリスト・大西康之による記事はこう始まる。
ビジネスダイアリーの持ち主は東芝で原発事業などを手がける社員で、そこには、[12年10月19日 dinner 今井]などとアポイントが記録され、“今井”との会合や食事は1年間で約30回に及んでいる。
ビジネスダイアリーとは手帳のことだが、手帳やノートのメモには、手書きゆえの生々しさがあり、おまけにかしこまったものではないため、強い感情や秘密がストレートに吐露される。それゆえに電子メールやGoogleカレンダーにはない物語性をもつ。
世を騒がせた肉筆メモといえば、ダグラス・グラマン事件での商社による政界工作を匂わす「海部メモ」や、矢野絢也の「黒い手帖」などがパッと思いつくところ。
あるいはいまだ解決せぬ「京都長岡ワラビ採り殺人事件」。これは山へワラビ採りに入った主婦ふたりが殺害された事件で、被害者のひとりのポケットから、「オワレている たすけて下さい この男の人わるい人」と走り書きされたスーパーのレシートが発見される。これには鉛筆でつついたような跡もあり、「手のひらか膝のような柔らかいところで書いたのではないだろうか」との推測もある(注)。レシートの裏、カタカナ混じりの文章、鉛筆でつついたような跡……、恐怖心と逼迫感、そうした感情や状況が物理的に現れ、伝わってくる。
「今井」と「今井次長」の書き分け
東芝記事の場合はどうか。ここで紹介されるメモ書きを見ていくと面白いことに気づく。会食の場合は[12年2月1日 dinner 今井]という具合に名字のみを記しているのに、役所で会うときは[12年2月23日 16:30~17:00 METI 今井次長](METIは経産省のこと)、 [12年8月10日 15:30~17:00 エネ庁 今井次長]など、「今井次長」と役職をつけているのだ。
きっと律儀で几帳面な人なのだろう。その性格が東芝の経営判断の
朴槿恵の「マイ便器」
否応なく、紙に手書きとなるのが、監獄である。
韓国前大統領・朴槿恵は今、拘置所にいる。同じく文春今週号の「朴槿恵 日本では報じられないトイレへの執着」によると、「美容師もいない、自分の便器も持ち込めない拘置所で、朴槿恵はどう過ごすのか」と韓国紙はあおる。なんでも朴槿恵は他人との接触を極端に嫌う潔癖症ということもあってか、かつて視察で仁川市を訪れた際、休憩室にと提供された部屋に併設されたトイレの便器を、まるごと交換したという。
いわばマイ便器である。日本では大物政治家が収監されるごとに、東京拘置所指定の差し入れ弁当がいいものになっていったとの話があるが、マイ便器の持ち込みまではどうか。
くまぇりとゴマキの弟にみる、ムショで書くということ
拘置所や刑務所といえば、読書と書き物がつきもので、ありあまる時間と人恋しさがそれらに向かわせるという。
後藤祐樹「懺悔 ゴマキの弟と呼ばれて」(ミリオン出版)には、後藤祐樹が獄中でつけたノートの一部が写真で紹介されている。そこには購入物品のメモ書きがあり、便箋やボールペンと共に結婚情報誌「ゼクシィ」を買ったと記されている。そうか、刑務所でゼクシィが買えるのか。しかし、なぜ。姉・後藤真希のインタビューかなにかが掲載でもされたのだろうか。そうだとしたら切ない話である。
また「新宿並みに出身地の知名度を上げたかった」との理由で長野県諏訪市などで放火を繰り返し、実刑判決を受けた通称・くまぇり、彼女の最初の手記は、「たいほイコールけいむしょ。けいむしょいこーるオリ」 (創・2007年5月号)、この程度の文章力、社会認識であった。その後、刑務所での日々を重ね、「創」でマンガ連載もはじめる。最初はどうにも面白くない代物であったが、次第に絵も文章もうまくなっていき、今ではしっかりした社会派のコミックエッセイになっている。昨年の秋には読者からの反響が特集されたほどだ。
そんなくまぇりは、ホリエモンの刑務所ライフを綴った著書を読み、こう感想を漏らす。「1年9ヶ月のションベン刑じゃん 私に比べたら尿モレ程度だよ」(創・2015年1月号)。ションベン刑とは短期刑期のこと。
はたしてマイ便器を持ち込めずにいる前大統領は、ションベン刑で済むのか、はたまた……。
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注:別冊宝島Real「迷宮入り!?未解決殺人事件の真相」164頁