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【ロッテ】黄金ルーキー佐々木千隼 登場曲決定までの舞台裏

文春野球コラム ペナントレース2017

2017/04/13
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 いつからこれほど選手の登場曲が注目を集めるようになったのだろう。ピッチャーならマウンドに上がるとき、打者なら打席に入るときに球場内で流れる曲のこと。いわゆる出囃子。近年では楽天イーグルス在籍時の田中将大投手(現ヤンキース)が使っていたFUNKY MONKEY BABYSの「あとひとつ」が有名である。

真剣に悩んだルーキー・佐々木千隼の登場曲

 マリーンズでは5球団競合の末、入団をしたルーキーの佐々木千隼投手がどのような登場曲を使用するのかが注目を集めていた。スポーツ紙記者にとっても、これは大事なスクープの一つ。「佐々木の登場曲は何ですか?」と春季キャンプからよく聞かれた。もちろん、本人も直撃された。そのたびに本人はキョトンとした表情。それもそのはず。本人にしてみれば、マスコミからわざわざ聞かれるほど大事とも思っていないし、日々の練習に精一杯で、それどころではなかったのが実情だからである。

初勝利後に握手する伊東勤監督と佐々木千隼 ©梶原紀章

 そんな中、密かに佐々木千隼投手登場曲選考委員会が設立された(私の記憶では設立は3月15日、ZOZOマリンスタジアムウェート場にて)。事務局長は広報である私で、委員長はエースの涌井秀章投手。アドバイザーは英二投手コーチ。同コーチからは「大人っぽい曲で」との要望を受けた。

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 私からの提案は佐々木の出身校である東京都立日野高校OBでミュージシャンの忌野清志郎さんの曲。確か佐々木はなにかのインタビューで「雨上がりの夜空に」が好きと答えていた。しかし、委員長らの反応は鈍かったのでこの時点であっさりと自然消滅となる。

 ここから先に出てきたのはスピッツ、ゆず、ロードオブメジャーなど、ほぼ委員長の好み(たぶん)。ユーチューブのミュージックビデオを見ながら、討論が繰り広げられた(ちなみに佐々木本人は討論に一切、入っていません)。あまりにも真剣な話し合いに途中、私が「もう、それでいいんじゃないの?」と曖昧な返事をすると「そんな適当では困る!」と怒られる始末であった。

 基本的に、投手がベンチを出てからマウンドに上がり、投球練習を始め、終わるまでが1分30秒程度。そこから内野でボール回しをしてプレーボールである。すなわち先発投手の登場曲は大体、1分30秒、長くても1分35秒で締めなくてはならない。その中でいかに盛り上げるか。そしてスタンドで見守るファンとその曲を共有し、気持ちを高められるかが大事になってくる。

「登場曲はプロ野球選手にとって大事。まずはベンチから出てくるときにカッコいいのがいい。そうなるとやはり前奏が大事になる。歌詞で選ぶ人もいるけど、そうではなくて雰囲気を大事にしてあげたかった。彼に合うイメージの曲。彼にとってのそういう曲を探してあげたかった」(涌井選手談)

 ということで、長い議論の末、3月22日、本拠地ZOZOマリンスタジアムで初めて投げるドラゴンズとのオープン戦ではB'zの「今夜月の見える丘に」が選ばれた。この曲は確かに試合前の気持ちを高めるイメージにはピッタリで、私も賛成。マウンドに向かう佐々木を見ながら耳を澄ませ、曲と本人の豪快なピッチングとがうまくフィットしている感覚を感じた。

涌井秀章委員長が出した答えとは

 ただ、試合後、いったん白紙に戻すことになった。この曲を最有力候補として残しながらも、他の可能性がないのか探ろうということになったのである。そこで私からは長い期間、温めていたプランを披露する。映画「ちはやふる」の主題歌でPerfumeの「FLASH」。なぜならば名前が千隼(ちはや)だからで、曲の中でも何度も「ちはやふる」とこだまする。想像をしただけでワクワクするプランだった。

 涌井委員長も、秘めていた曲があった。SMAPの「オレンジ」。名曲である。ただ、野球の登場曲としてはたして合うのだろうか? 一瞬の間があったが、委員長から「この曲で送り出してあげたい」という強い決意が感じられた。私のはダジャレ感が強いこともあり、あまり強く推すことができず、「それでいきましょう」と賛同。4月6日の北海道日本ハム戦(ZOZOマリンスタジアム)、佐々木はマリーンズの大エースが選んだこの曲を背に人生最初のプロのマウンドに向かうことになった。

 5回、被安打3、1失点で勝ち投手。大勢の報道陣に囲まれた佐々木はやりやすい環境を作ってくれた先輩たちに感謝をした。「涌井さんはいろいろと話しかけてくださいます。本当に優しい方」。登場曲のいきさつまでは話さなかったものの、一生懸命、真摯に探し、選んでくれた大先輩への感謝の思いが横で立ち会っていた私にまで伝わってきた。その時、この一連の活動が緊張でカチコチになっている新人を和ませ背中を優しく押すための涌井なりの手段であったことに気が付いた。

試合後にファンとハイタッチする佐々木千隼 ©梶原紀章

 ちなみに同じくルーキーで初ホールドなども記録し活躍をしている有吉優樹投手も涌井の選曲。苗字が「有吉」であることから猿岩石の「白い雲のように」である……。

 こんな感じでいろいろな人が携わり考え、様々な想いを込めながらファンの方に感情移入をしてもらいやすい登場曲の曲選びを選手たちは真剣に行っている。ZOZOマリンスタジアムにお越しの際は、そんなバックグラウンドを想像しながら野球観戦を楽しんでいただけると幸いである。

梶原紀章(千葉ロッテマリーンズ広報)

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※「文春野球コラム ペナントレース2017」実施中。この企画は、12人の執筆者がひいきの球団を担当し、野球コラムで戦うペナントレースです。

対戦中:VS日本ハムファイターズ(えのきどいちろう)

※対戦とは同時刻に記事をアップして24時間でのHIT数を競うものです。HIT数はペナントレースの成績に加算されます。

※対戦は終了しました:日本ハム439HITー千葉ロッテ436HIT 3HIT差で日本ハムの勝利

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