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町から消えたのは子どもだけでない

 子育て世代の満足度は決して低くないが、出生数はこの30年、年10人を超えない。山村留学の成果もあって、もう少し増えても良さそうなものだが、なぜ出生数に直結しないのか。早川町教育委員会の笠井和人さん(51)は次のように説明する。

「山村留学生の約6割はお父さんが都会に残って働いています。職業選択の幅がどうしても都会の方が広いですから、保育園や幼稚園の世代は定着しません。実際、外から来る人にも『職場まではこちらも紹介できません』と伝えています。

 今どきですから、なかにはパソコン1台あればどこでもできるというスキルや手に職を持った親御さんもいますが、経験が浅い若者には厳しい職環境であることは否定しきれない。町から“消えた”のは子どもというより、若者かも知れません」

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子育て世帯が自宅の家庭菜園で採ったというジャガイモ ©文藝春秋

 ただ、町役場の宮本さんは、早川町でも人手不足だと打ち明ける。

「私自身、町外から移ってきましたがこうして役場で働いています。森林組合で働いたり、郵便局、給食センターや介護施設、会社で事務をやっている若者や山村留学生の家族もいます。町内で自分の会社を興している人だっている。都会に比べてバリエーションは豊富ではないかも知れませんが、この町も人手不足ですから働き口がないわけではないんです」

「山村留学」で子どもたちに一時的に滞在してもらっても、父親世代に選ばれる働き場の少なさがボトルネックになって移住にまでは至らない。つまり、町の“秘策”も出生数を増やすことには役立たっていないのだ。

町の入り口に立つ警察人形 ©文藝春秋

「移住は簡単に考えない方がいい。でも……」

 早川町役場企画振興課の一部として開設され、現在は町内でシンクタンクとして町が抱える課題に対する調査研究をしているNPO法人「日本上流圏文化研究所」の上原佑貴さんはいう。