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「自然の中で子育て」を謳う移住支援はニッポンの「絶滅集落」を救うのか?

「出生数ゼロ」山梨県早川町に行ってみた#2

source : 週刊文春デジタル

genre : ニュース, 社会, ライフスタイル, 教育

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「移住検討者とも面談することはありますが、簡単に考えない方がいいですよ、とはいっています。東京ならマンションの隣人の顔を知らないで済んでも、ここでは集落の会費の徴収もあるし、水道の管理も共同でしないといけない。町の祭りの仕事もある。何かと集落の区長と話しあう必要もある。

 のんびりしているようで、意外と忙しい。ですから、最初から『家賃の相場はどうですか』とお金の話を聞いてくるような人は、『この町で暮らすイメージがまだわかないんだ』と思ってしまいます。

 私も町外から引っ越してきましたが、緑豊かな自然の中で子どもをのびのびと育てることもできるし、集落で助け合う楽しさがあるのは確か。決して理想郷ではないですが、そういうところに目を向けて、この町の価値を感じてもらえれば嬉しいですね」

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リニア新幹線は希望か、気休めか

 いま早川町では、全長25キロの南アルプストンネルなど、リニア新幹線の工事が急ピッチで進められている。さらに、中部横断自動車道の工事や、ダムの補修などで町に出入りする建設業者は多い。

リニア新幹線南アルプストンネルの工事現場。作業員らが朝から体操を行っていた ©文藝春秋

 町役場が2015年に作成した「早川町人口ビジョン」ではリニア新幹線の関係工事だけで300人以上の流入を見込んでいたが、実際に住民票を移した工事関係者は50人程度だったという。高度成長期の公共事業と同じく、一時的な効果にとどまっている。

 夕暮れ、取材を終えて一本道の山道を降りていると、道路は真っ暗だった。昼間は街灯の少なさに気付かなかったのだ。時折すれ違う対向車のドライバーは、みんな作業用のヘルメットをかぶっていた。この町にリニア新幹線が通るころ、町並みにはどんな景色が広がっているのだろうか。

人気のない町内を走る車は、工事関係車両が多い ©文藝春秋

その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。

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