筋はもちろん、演出、配役、音楽、映像と、すべてに渡って総合的に優れている『ラ・ラ・ランド』のような映画もイイが(僕は観ていないけれど)、そういう作品は多くの人が推奨するだろう。ここでは「それだけ映画」(特に優れた点は他にないけれど、ある俳優「だけ」が異様に魅力的な映画)の秀作を3本挙げる。
主演の渡辺謙の極道ぶりが異常にイイ
『新 仁義なき戦い 謀殺』
オリジナルの『仁義なき戦い』(深作欣二監督の5部作)は超絶名作だったので超えようもないが、その後の数あるリメイクのなかではこれがいちばん。深作自身による『新 仁義なき戦い』に勝るとも劣らない。なぜかというと、主演の渡辺謙(だけ)が異常にイイから。ギラギラでベタベタな武闘派極道ぶりは他の追随を許さない。オリジナル『仁義なき戦い 広島死闘篇』での伝説の千葉真一の名演を凌駕しているといってもよい。渡辺氏はハリウッド映画に出ている場合ではない。本来は東映ヤクザ路線でこそ実力を発揮する人だと思う。
墨田ユキはこの映画のために生まれてきた
『濹東綺譚』
永井荷風の原作とは似て非なる話だが、主演女優の墨田ユキが放出する日本の固有美がとっくりと味わえる。その容貌がこれ以上ないほどジャストミート。昭和11年の東京・玉の井の私娼窟から本当に連れてきたような顔かたちをしている。見かけだけでなく、墨田の自然すぎるほど自然な演技もまた素晴らしい。キャリア十分の津川雅彦と乙羽信子が円熟の安定した演技を見せるが、互角に渡り合うどころか、むしろ両者を喰っている。墨田ユキという人はこの映画のために生まれてきたといってもいい。
関根恵子の次元が違う美しさは昭和の奇跡
『おさな妻』
倒産へとひた走る断末魔の大映が繰り出した超低予算映画。面白くもなんともないが、当時15歳の関根恵子(つまりは高橋惠子)の超絶美貌に驚く。天然露地もの、素材むき出しの美。スチール写真で見たときに「ああ、綺麗な人だな」というのとは次元が違う。画面から飛び出してくるような攻撃的な美しさは昭和の奇跡といってよい。関根美(だけ)を味わうため(だけ)に存在する作品。個人的には1970年当時の東京・山の手の風景が随所に出てくるのも嬉しい。