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ダーツで席決め。仲良しクラブを作らない

 コスト削減を実現しながら、イノべーションや知恵を生み出せる場所として、社内の様々な部門が交じり合い、協業できる環境となると、チーム内で自然と「昔ながらの島型のオフィスではないよね」という方向性がまとまった。

「じつは商品部門や営業の一部ではモバイルワークやフリーアドレス制を以前から採り入れていて、上手くいった点もそうでなかった点もある程度は把握していました。一番の問題は、コミュニケーションの向上を主眼に導入したのに、顔見知り同士が同じ席に固まるという傾向がどうしてもあって、フリーといいつつ結局は固定席、仲良しクラブになりやすいことでした」

 そこで石井氏たちプロジェクト・チームは、「ダーツ・システム」と呼ばれるシステムを選んだ。要はガラガラポンで1日2回の、席替えを課すのだ。

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 出社時に社員は、オフィス中央の管理PCの画面に入館証をかざして、北・中央・南の大まかなエリアと、ソロ席・コミュニケーション席・集中席いずれかの座席タイプ、そして最大5時間(集中席は2時間)のうち何時間、席を占有するか、以上3項目を選ぶ。

まずはソロ、コミュニケーション、集中の3つのタイプから1つを選ぶ。

 あとはシステムから割り当てられた席にて、仕事を行う。終了5分前になると、自動メールでタイムアップが知らされる仕組みだ。ちなみに2~3人でちょっとした打ち合わせがすぐできるようなカウンターは、作業デスクとは別に設けられている。

ダーツ・システムで席はランダムに振り分けられる。
「当初のプランではグループ席は6人がけだったんですが、両脇を挟まれる真ん中の席って嫌だよね、ということで4人がけにしました。

 着席時の働き方モデルとしては、周囲と話す「コミュニケーション」、一人でこつこつ仕事ができる「ソロ」、最大2時間の「集中」という3種類を想定しました。もちろん、部署を超えて人が混ざり合い、互いに見渡せて刺激になるよう、コミュニケーションを活性化させるのが主眼です。

 その効果だけじゃないかもしれませんが、勤務時間外でも若い社員たち同士は、部署を越えた飲み会なんかも開いているみたいですよ。

 一方で、一日8時間、同じ作業をやり続けているはずもないので、長くても4~5時間、この席に座っている間にここまで進めようといった、タイムマネジメントも自分でしていこうという、仕組みづくりでもあります」

壁際にある集中席。

 間仕切りひとつないオフィスは長辺83.5mの端から端まで、全体が見渡せる。社内ミーティングの場となる会議室も、密室ではなくデスクから見渡せるオープンスペースで、会議中にすら声をかけられる造りだ。

会議室もこの通り。仕切りは唯一、ホワイトボードのみ。

 採用シーズンなどは固定電話を増設する関係で、人事部などが一時的に固定席になることはあるものの、基本的にどこに誰が座るかは流動的。

 デスクワークや打ち合わせ、社内での会議など、誰が何をしているかは一目瞭然で、声をかけるタイミングや機会は、いかにも失われにくそうだ。すべてはコミュニケーションのためにあるオフィスといえるだろう。

<写真=橋本篤/文藝春秋>