書類は7割削減。「紙は1円も生み出さない」
ちなみに毎日2回、席を替わることで劇的に変わったのは書類の量だと、石井氏は続ける。
「紙は一円も生み出さない、オフィスをゴミ箱にしちゃいけない、家賃を払って書類の置き場にするな、と松本はいうんです。島型の固定席の時は、デスクの上に書類が山のように積み上がっていたものですが、毎日キャビネットからノートPCと一緒に出せるだけの量しか、資料や書類は自然と持たなくなりました。捨てて後悔したこともありますけど、定期的に捨てる癖がついたんですね。
ファイルメータで実際に測ったら、以前より書類は7割、減っています。コピー機やプリンタ、文房具を使うコーナーは北・南・中央の各エリアに1カ所ずつ、計3カ所に集約しました。以前は一人ひとりの引き出しに糊やテープがあって、部署ごとにコピー機や会議室が備わっていたことを思えば、かなり効率的ですが、慣れると席を立ってそこまで歩くのも面倒と感じるのか、なるべく紙を出さないで作業する方向になるようです」
創造性やイノベーションだけでなく、総務部のような社内の基幹サービス部門でも、そのメリットがあるということだ。
いずれの席も共有スペースなので、ご飯を食べない、ゴミを残さないことは最低限のルール。そのため、すべてのデスクが清潔で片付いた状態に保たれるのは、フリーアドレスならではのメリットだとか。
「あとメリットを感じるのは、異動の時。島型のオフィスですと、机を動かして隣合う部署同士がメジャーで自陣スペースを採寸したり、電話やPCの配線が上手くいかなかったりして、その調整だけで一日が潰れてしまうこともありましたが、フリーアドレスならこれらの問題は起こりようがありません(笑)。総務部門も休日出勤して、配席の対応をしたりすることがなくなったのは大きいですね」
「会社に来なくてもいい」。オフィス改革が「働き方改革」に
「おそらくフリーアドレスは運用を間違えると、ただの無法地帯。当の社員たちにとってみれば、携帯電話とPCだけ持たされて野に放たれるようなもので、経営や業務の意向に沿った最低限の仕組みやルール作りの必要はあります。
ただ、きちんとした経営判断のもとで採り入れるならば、在宅勤務の一歩手前の労働形態・段階になるとも思うんです。ウチはすでに勤続3年以上の社員なら週2回まで在宅勤務がOKなんですが、4月からその縛りも無くしました。
松本の口癖ですが、変わらないのはダメだ、っていうんです。変化を能動的に起こせというメッセージですが、以前は早く帰宅しなさい、効率よく働いて1時間でもプライベートな時間が増やせるならその方がいい、コアタイムは15時までだけど敢えて14時に帰れっていってたのが、最近はオフィスに来なくたっていいんだ、とまで公言していますから(笑)」
各社員がどこに何時間ずつ座って仕事をしていたという記録は残るはずだが、カルビーはあえてログを追っていないという。そもそも部署間でコミュニケーションをとれ、などと上から命令したところで、社内コミュニケーションは活発化しない。
トップダウンのようでいて、じつは社員の自発性を最大限に引き出す、そこがカルビーの数年来の躍進とオフィスの秘密といえそうだ。
<撮影=橋本篤/文藝春秋>