抗がん剤の副作用で救急搬送、即入院
“喉元に残る熱さにも慣れる”なんて言葉は無いが、なんだかんだ大変な日々も送っているうちにコツや手順、体調の波が見えてくるもの。このまま乗り切れるかもと妙な自信がつくなかで事件は起きた。
まずは息子が高熱を出して嘔吐、下痢がノンストップ状態に。悪魔憑依レベルでぐずる彼を小児科に診せるも高熱と下痢は治まらず。病院から帰ると、妻が高熱を出してダウンしてしまう。寝室では妻が唸り、リビングでは息子が大泣きしながらエンドレスで下痢。ようやく夜になって息子も寝てホッとしていると、妻がありえないほどフラフラになってリビングに倒れ込んでくる。背中にナイフでも突き刺さっているんじゃないかとビックリすると「救急車……」と呟き、救急搬送で即入院。診断は抗がん剤の副作用とのこと。がん細胞をやっつける治療をしているはずなのに、体がボロボロにされていくようにしか見えない。腫瘍摘出の手術をした際は術前の顔色と体調の悪さが消失したのに、抗がん剤は日を増すごとにどちらも悪くなる。そんな矛盾や不条理に考えを巡らせながら、入院中の妻に息子の便の状態をLINEで逐一報告し、復活した彼の面倒やら家事を済ませてテレビをつけたら、菅官房長官が新元号“令和”を発表していた。
5日間の入院を終えた妻は、今回の強い副作用から抗がん剤の後遺症が身体に残る危険性があるとして投薬量を大幅に減らすことに。こちらとしては「いやいや、減らしたら駄目でしょ!」と慌てたが、その決定に彼女は安堵して涙。治療を減らしてホッとしてしまうとは……と、ここでもまた抗がん剤に対してモヤモヤした。そして悟った。本当に抗がん剤治療は手術の時よりもキツいと。
ゴールデンウィークになって暖かくなると同時に体調も良好に。飲むと悪寒に襲われていた冷たいものをグビグビと飲めるようになり、吐き気も消えてシャキッとするようになり、仕事もガンガンするように。投薬最終日となる6月26日には、思わず無言で抱き合ってしまった。妻の“悪い癖”であった開けっ放しも、すべて全開の状態に戻った。それを見て「これは、とりあえず元気にはなりましたというメッセージなんだろう」とグッときてニンマリした。
抗がん剤治療が終わってから半年。妻はいまも急に熱を出すことがあるが、息子を自転車に乗せて4キロ離れたスーパーまでぶっ飛ばし、そこからまた4キロ離れた公園で息子と遊んでのける。そんな姿を見て「あなたの大腸がんに効くかどうかわかんないんだよね」という医師の言葉がフラッシュバックするが、それでも「ウチって、大変な目に遭ったことないからな……」と楽観視するどこまでものんきな自分も相変わらずいる。