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 なにが最高なのか? 山田明子は完璧ではないから。完璧ではないことを、隠していないから。完璧ではないことを隠さない人は、逆説的に完璧だから。不完全は不幸と等号で結ばれないことを、山田明子は全身で証明してくれているから。私はことあるごとに彼女のインスタを友達に見せているのですが、小さなお子さんを持つ働くお母さんがぽろっとこぼした言葉が忘れられません。彼女は言いました。「ホッとする。そうだよね、愛情があれば、それでいいんだよね」と。

 最近は弁当箱を変えたのでそこまでのインパクトはないのですが、それまた最高ではないですか。雑な弁当が受けると知ったらわざとらしくそれを続けそうなものなのに。そういう企みは、山田明子と無縁です。

 山田明子は、不健全に人から必要とされたがらない。それは彼女が自分で自分を満たすことができるからでしょう。

 山田明子は自分におおらかです。不完全な自分に自分でOKを出している。自分におおらかなのと「どうせ私なんか……」と諦めるのは大違い。己に過剰な期待をせず、見切らず、そのバランスはとても難しい。

 他にもオススメフォトはたくさんあります。水着の背中一面がカッピングの赤いあざだらけの写真。スタイルいいけど若干グロい! こんなの普通載せないよ! ハロウィンのピンボケ自撮り。メイクが流血過ぎて、これじゃあバタードワイフ(DVを受けた妻)だよ! そんな写真たちの中に、2メートルは優に超す大きなツリーを飾った弟さんご夫婦宅でのクリスマスパーティーや、身ぎれいで品の良いご両親の写真が混じる。くどいようですが、山田明子は紛れもなく良家の子女。あこがれすぎて鼻血が出そう。

 2016年。私はいままででいちばん、山田明子が好きです。長年の熱心なファンとは言えませんが、同じ学年の彼女を雑誌やブログやSNSを通してぼんやり20年見てきました。そこに写っているものがすべてではないでしょう。眠れぬ夜も、誰にも言えない出来事もあったでしょう。それでも、山田明子は不自然さのない幸せにいつも包まれているように見える。そこが何物にも代えがたい魅力です。こんな人、なかなかいませんよ。

 さて、私がなぜ会ったこともない同世代の女性にこれほど肩入れしているかと言えば、そこには下衆(げす)な理由があります。決して後天的には手に入らない出自に圧倒されながら、生まれや育ちですべてが飛び級できるわけではないことを、私は彼女のなかに見たいのでしょう。模倣できない彼女のたおやかさにねじ伏せられる快感を味わいながら、育ちが人生のすべてを約束するわけではなく、幸せはあくまで自分でつかむもので、その点に於いて人は等しく平等だと彼女に証明してほしいと願っている。

 どんなに育ちが良くとも、掛け値なしの愛情の交換では誰もが傷付く可能性があり、しかしながら転んでもそこから前を向ける者だけがより深い愛情を育てられる。そう信じたいのでしょう。そんな下衆な心を、私は勝手に山田明子へ投影しているのです。

 ハタチそこそこの彼女を見た時、この人は揺るぎのない幸せのもと、これからの人生なに不自由なく生きていくんだろうと思いました。20年経ったいま、そんなに簡単な話でもないことがわかりました。世間に見えている限りでさえ、彼女の人生にもいろいろあったとわかります。しかし、彼女の笑顔は相変わらずまぶしい。なんと晴れ晴れしいことでしょうか。

ジェーン・スー

ジェーン・スー

東京生まれ、東京育ちの日本人。作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニスト。音楽クリエイター集団agehaspringsでの作詞家としての活動に加え、TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」でパーソナリティーを務める。著書に『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』(ポプラ文庫)、『ジェーン・スー 相談は踊る』(ポプラ社)があり、『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(幻冬舎文庫)で第31回講談社エッセイ賞を受賞。

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