『人工知能の見る夢は AIショートショート集』(新井素子、宮内悠介ほか 人工知能学会 編)

 AIが書いた小説を読んだことがありますか? 『人工知能の見る夢は AIショートショート集』刊行を記念して本書より作品を公開します。小説は有名な星新一賞に応募された作品で、この試みに挑戦する研究室の佐藤理史さんによる、製作の成り立ちがわかる書き下ろし解説つきです。創作の過程がくっきりしたところで、もう一度、小説を読むと印象が変わるかもしれません。

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short short story

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人狼知能能力測定テスト

(第4回星新一賞応募作品)大上幽作 Ogami Yusaku

 

 人狼ゲーム。それはプレイヤーが村人と人狼に分かれて行うゲーム。人狼は正体を隠して村人の中に紛れ込んでいる。プレイヤーは全員で昼間に会議をし、紛れている人狼を見つけ出して処刑する。夜になると人狼は本性を現し、ひっそりと村人を襲撃する。処刑できるのは1日に一人で、誰を処刑するかは全員で投票を行って決める。人狼が襲撃できるのも1日に1人。人狼は夜になると村人を一人指定して殺害する。人狼をすべて見つけ出し、処刑すれば村人の勝利。人狼の人数と村人の人数が同じになったら、村人は人狼に対抗できないと見なされ人狼の勝利。  

 村人の中には特殊な能力を持つ役職がある。占い師は夜のうちに一人、人物を選択し、その人物が人間か人狼かを知ることができる。霊媒師は夜のうちにその日に処刑した人物が人間か人狼かを知ることができる。狩人は自分以外の誰か一人を選び、襲撃から守ることができる。守った人物がその日の夜に襲撃された場合、その夜の襲撃は失敗する。狂人は村人でありながら人狼陣営に所属していて、人狼が勝利したときに勝利する。ただし占いや霊媒の結果は人間と出る。その他の特殊な能力を持たない村人は単に村人と呼ばれる。  

 人狼、村人、占い師などの役職は、ゲーム開始時にプレイヤー全員にランダムに割り振られる。今回のルールではプレイヤーは全部で10人。村人4人、占い師、霊媒師、狩人、狂人がそれぞれ1人ずつ、そして人狼が2人である。明かされるのは自分の役職だけで、他は誰がどの役職なのかわからない。ただし、人狼だけは残りの人狼が誰なのかお互いに知っている。    

 

 この人狼ゲームだが、最近とある分野で大きく注目されている。それが、人工知能、いわゆるAIの分野だ。人工知能に人狼ゲームを行わせる試みは昔からあったが、最近ではAIの性能を評価するためのテストとして人狼ゲームが注目されている。なんでも、人狼ゲームは言語能力、表情を作る力と読み取る力、嘘を見破る論理的思考力、相手を説得するための文章力、感情の表現力など、AIの持つ様々な能力を総合的に評価するのにピッタリな題材なのだそうだ。これまでAIの優秀さを総合的に評価するテストは存在しなかった。そういった背景があり、「人狼知能能力測定テスト」が登場した。これにより真に優秀なAIが決定すると話題になっている。  

 そして今、様々な分野で大活躍している選りすぐりのAIたち10人が集められ、第一回のテストが行われる。