「経済制裁」。耳慣れた言葉だが、果たしてその効果はいかほどなのだろうか。北朝鮮の核兵器やミサイル開発を止めさせるため、主要国は経済制裁を続けてきた。しかし、相変わらず北朝鮮のミサイル開発は続き、今や脅威が増大している。経済制裁の効果が薄い背景には「制裁破り」さえ行い、北朝鮮との貿易を優先する中国企業などや、「第三世界」ネットワークの存在があった。
(出典:文藝春秋オピニオン 2017年の論点100)
経済制裁が効かない理由
北朝鮮の核開発とミサイル実験が急ピッチで進んでいる。
国連安保理は北朝鮮の核兵器やミサイル開発を止めさせるため、2006年以来、経済制裁決議を採択し続けてきた。現在の禁輸対象は、大量破壊兵器や通常兵器とそれに関する各種部品・サービス、贅沢品、一部の鉱物資源や燃料類などである。(注1)日本もまた、2006年から始めた独自の経済制裁で、現在では全面禁輸を実施している。にもかかわらず、北朝鮮の核兵器とミサイル開発は続いている。のみならず、2016年にはすでに20発以上のミサイル実験を実施し、日本の安全に直接的な脅威を与えている。
もともと経済制裁は、万能薬にはほど遠い。経済制裁によって国際秩序を保とうとすれば、各国は輸出入管理のために多くの費用や労働力などを負担することになる。だが、国際秩序の恩恵は欲しくても負担を嫌がるフリーライダーが増えれば、経済制裁は効力を失っていく。
さらに、経済制裁の対象国とひそかに貿易すれば、真面目に制裁した国が抜けた分、大きな利益を上げられる可能性があるため、フリーライダーどころか制裁破りが横行する。北朝鮮に対する経済制裁でも、フリーライダーや制裁破りは数多く見られる。これが、経済制裁が効かない理由の1つである。
北朝鮮が核兵器やミサイルを開発しても、東南アジアや中東、アフリカ、中南米にたいした影響はないし、利害関係も小さい。これらの国々では、制裁に加担しなくてもたいした問題はないし、制裁を破れば儲かる可能性がある。国際秩序を守ることに比較的関心が高いヨーロッパ諸国でも、北朝鮮と貿易しようとする企業はこの10年でむしろ増えている。日米やヨーロッパ以外では、北朝鮮に対する制裁に熱心になることは考えにくい。
制裁破りでよく知られているのは、中国である。中国企業にとって、日米が参入しない北朝鮮との貿易は、それだけ競争も少なく大きな利益を得られるため、制裁破りをするだけの価値がある。しかも、中国では公害や腐敗などの国内問題でも企業への取り締まりが行き届いておらず、制裁破りは横行しやすい。
さらに問題なのは、北朝鮮に対する経済制裁に関心がない東南アジアやアフリカ、中南米等のいわゆる第三世界の国々である。これらの国々は、フリーライダーや制裁破りになりやすい。実際、国連加盟国の5割以上(注2)は、北朝鮮に対する制裁状況の報告書を要求されても、提出していない。同時期に要求されたイランに対する制裁状況の報告書よりも少ないほどだ。極端なのはアフリカ諸国で、54ヶ国中、6ヶ国しか提出していない。(注3)
アフリカ諸国では、実際に国連安保理制裁決議を破っているケースが見られる。たいていは、国連安保理制裁が始まる前から北朝鮮と軍事協力があって、それを続けていたことに起因する。