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北朝鮮への経済制裁は、なぜ効果を持ちにくいのか?

第三世界に広がる「北朝鮮・武器輸出ネットワーク」

2017/05/09
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北朝鮮の第三世界ネットワーク

 アフリカ諸国の経済制裁違反について、筆者は2014年度と2015年度に直接現地に赴いて調査したことがある。ウガンダでは、現地の新聞記者にインタビューして、北朝鮮とウガンダの軍事協力を調査した。すると、ウガンダは警察軍のために北朝鮮のトレーナー100名を雇っていたことが分かった。しかも、ウガンダは2009年に国連安保理で採択された北朝鮮に対する制裁決議に賛成した非常任理事国であり、制裁報告書も提出していた数少ないアフリカの国連加盟国の1つである。ナミビアでも同じく、新聞記者に北朝鮮との親密な関係についてインタビューし、軍事基地や軍事施設建設のために北朝鮮の技術労働者が雇われていることが分かった。

 エチオピアでは、武器工場を建設してくれた北朝鮮から技術者を雇い、武器資材を輸入していることが知られていたが、その武器工場が実際に存在することを確認した。国連安保理制裁委員会専門家パネルも様々な情報を得ている。たとえばコンゴ民主共和国では、北朝鮮からトレーナーを雇い、武器を輸入していた。コンゴ共和国では、北朝鮮から戦車の部品を輸入しようとした。アフリカにおいて、いかに北朝鮮に対する経済制裁に関心が低いか、理解できよう。他にも中東諸国や東南アジア諸国、中南米諸国でも、制裁報告書を出していないフリーライダーや制裁破りをしている国が散見される。

より有効な経済制裁を目指して

 なぜ、ここまでフリーライダーや制裁破りが放置されていたのであろうか。それは国際政治が基本的に無秩序な世界であって、制度構築が困難であることに起因している。国連安保理制裁決議を破ったところで、罰則があるわけではない。日本国内であれば、法律によって定められた罰則に従って、警察が実力行使で取り締まれるわけである。しかし、国際政治では、国際法によって定められた規範によって、各国に自制を求めるに過ぎない。そのため、フリーライダーや国際法破りはよく発生する。北朝鮮に対する経済制裁でも同じである。

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 日本では、東アジア以外で、北朝鮮がどのような国際関係を構築しているのかはほとんど知られていない。北朝鮮における国際社会とは、対第三世界のことである。第三世界では、北朝鮮に対する制裁に関心がないだけではなく、北朝鮮と強い友好関係がある国もある。第三世界との関係も考察しながら、北朝鮮に対する有効的な経済制裁体制を構築することが、これから必要になるであろう。

 そこで重要になるのは、第三世界が北朝鮮に対する経済制裁に協力的になるように、誘因をつくることである。すなわち、経済制裁をすればもっと利益が上がるように制度を構築することである。それができなければ、第三世界は北朝鮮に対する経済制裁には消極的なままとなり、日本の安全はますます脅威にさらされることになるであろう。

筆者注釈(2017年5月2日現在)

注釈1:2016年11月30日に新たな国連安保理制裁決議(第2321号)が採択され、禁輸対象の鉱物資源が付け加えられ、北朝鮮から像や、船舶と航空機の乗員サービスの調達も禁止された。また、北朝鮮に対するヘリコプターと船舶の輸出も禁止された。

注釈2:2017年4月末の時点では、国連加盟国193ヶ国のうち106ヶ国まで提出国が増えており、55%が過去に報告書を提出したことがあることになる。

注釈3:2017年4月末の時点では12ヶ国まで増えた。2017年4月に入ってから、筆者が調査したナミビアもエチオピアも報告書を提出した。

出典:文藝春秋オピニオン 2017年の論点100

著者:宮本悟(聖学院大学教授)

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