ひとりで延々と悩み続ける
さらにいえば、古沢作品は「起」以前がすでに興味深いので、いきなりストーリーにのめり込んだり、キャラクターに感情移入がしやすい。「デート 〜恋とはどんなものかしら〜」なら、恋愛を回避して生きてきた男女のこれまでの生き方がまずもっておもしろい。このふたりが出会えばいったい何が起きるのかと、否が応でも興味をそそられる。
「そうであればいいと思って書いています。だからなのか、書き出しから全体の半分くらいまでは、やたらと時間がかかりますね。何回も書き直しますし、書き出すまでにずいぶん時間がかかる。これで本当に書き出していいんだろうかと悩みに悩んで、ようやく書き出す。何か違った、このまま進んだら取り返しがつかないとなって、また頭からやる。ああ、もっと早く書き出せばよかったと思う。その繰り返しです」
書き出すまでの時間は、頭のなかで作品世界を練り上げているのだろうか。
「そうです。まずは主要な人物たちをつくり上げて、この人たちはお互いをどう思っていて、どういう関係なのかということをずっと考えていく。ドラマは結局、人間関係だと思うし、人が惹きつけられるのはそこしかない。だから慎重に構築しておこうと思って、つい時間がかかってしまう。そういうのは、ひとりで延々と悩み続ける以外、突破する方法はありませんからね」
観る人をザワザワさせたい
難しいのは、テレビドラマにしろ映画にしろ、作品の深みや脚本家としての納得度を高めていくと同時に、視聴率や観客動員数といった「数字」を強く意識せざるを得ないところ。チームで、仕事としてものを書くからには、避けて通れないことだが、折り合いはどうつけているだろう。
「もちろん数字はつきまといますし、自分としてはいつだって視聴率をたくさんとりたい。そのための手当だってできるかぎりしたい。姑息な手段だって使いますよ。たとえばみんなが喜びそうな場面はちゃんと入れる。このキャストがこういうことをしたら、きっとみんな喜ぶよねというのは存在するし、だいたいわかるじゃないですか。だったらその場面は脚本に取り入れる。
大ヒットした『逃げるは恥だが役に立つ』でも、エンディングで出演者が踊る“恋ダンス”、話題になりましたよね。ダンスって、バズる可能性は高いから、つくる側はそれをわかって仕掛けている。でも、そうやって仕掛けても、うまくいかないことは多いから、みごとに当てたのは立派だなと思って見ていました。僕だってそういうことをいつもしようとしているし、ああいう社会現象みたいなことを起こしたいとはつねに思っていますよ。そうそう成功しないというだけで。
まあ、大ヒットをつくれたらいいなということは頭に留めながら、そこまでわかりやすいヒットじゃなくてもいいので、観る人をとにかくザワザワさせたいという気持ちのほうが、僕は強いのかもしれませんけれど」
観る側の心に波風を立たせる。そんなささやかなことのために、古沢さんは日々ひとり、言葉と格闘し続けている。
その成果を、次にわたしたちが享受できるのは、今年の秋と冬。新垣結衣と瑛太が主演する映画「ミックス。」、大泉洋+松田龍平のコンビが健在の映画シリーズ最新作「探偵はBARにいる3」が、立て続けに公開となる。古沢良太の創造の源を探りながら観てみたい。
写真=飯本貴子