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文支持者が望む「積弊清算」

 文大統領は選挙前の最後の遊説を、朴前大統領を弾劾、罷免に追いこんだロウソクデモの聖地、ソウル市中心部の光化門広場で開いた。5万人ほどの熱狂的な支持者が「ムンジェイン、ムンジェイン」とシュプレヒコールを繰り返す中で、文氏は「過半の圧倒的な支持」と「積弊清算」を何度も繰り返した。「積弊清算」とは、過去の政権時代に積もった弊害=不正、そして不公正な社会構造を清算するという意味を持つ。遊説に集った人々に文大統領を支持する理由をひとつ挙げてほしいと問うと、皆この「積弊清算」を挙げた。

文氏の最終演説の様子。数と熱気では他の候補を圧倒していた。 ©菅野朋子

 20代後半の女性の話は印象的だった。

「私はまだ正社員で働けない。こんな酷い社会にして問題を解消できていないのは、この9年間続いた保守政権の政策の失敗からです。彼らの不正を一度正してから、文候補には大統領になって新しい政治を行ってほしい。『積弊清算』を確かにできるのは文候補しかいないんです」

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 文大統領は故盧武鉉元大統領の「嫡子」ともいわれる人物で、文氏が大統領に就任すれば自死した故盧元大統領の弔い合戦をするのではないかともいわれた。前出記者が言う。

「故盧元大統領が自死した背景には李明博元大統領時代の強硬な検察捜査が取り沙汰されています。文大統領は、公約にも『朴槿恵・崔順実国政壟断清算のための積弊清算特別調査委員会』設置を掲げていて、これから李政権も含めた過去の政権の不正についての捜査が始まるのは必至。また国が騒がしくなります」

「積弊清算」を訴える文在寅氏。 ©菅野朋子

逮捕歴もある文在寅

 文大統領の両親の故郷は北朝鮮の咸鏡南道興南と伝えられる。朝鮮戦争が始まった1950年、米国船に乗って韓国に渡り、南部にある巨済島に移り住んだ。文大統領が生まれたのも、造船と漁業の街、この巨済島だった。

 巨済島で始めた父親の商売はうまくいかず、家は貧しかったという。中学・高校は、韓国南東部の慶尚南道きっての名門校に進み、1浪した後、大学はソウルの慶煕大学法学部に進んだ。大学時代は朴正煕元大統領の独裁政権に反対する「維新反対デモ」にも参加し逮捕歴もある。 

 1980年、司法試験に合格し、研修での成績が2位だったにもかかわらず逮捕歴から判事にはなれず、弁護士となった。そうして出会ったのが、故盧元大統領だ。故盧元大統領時代には秘書室長などの要職を務め、2012年の大統領選挙では朴前大統領と争い3.6ポイントの差で敗れている。ちなみに朴前大統領はこの時韓国史上初めて過半を超えた51.6%の支持率で当選した。

 文在寅大統領は即日就任となり、ようやく韓国が動き出した。

 10日の国会での就任演説では、権威的な大統領からの脱皮を訴え、「今日から私は国民すべての大統領になる」と宣言し、外交では「必要であればすぐにワシントンに飛んでいく。北京、東京にも、条件が整えば平壌にも行く」と話し、北朝鮮の核問題解決にも意欲を示した。

 はたして文在寅大統領はこれから北朝鮮とどう向き合い、日本、米国、中国とはどんな外交を見せていくのか。

 韓国内では「統合」の一歩となる組閣に関心が集まっている。