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チーム全員が浦野を応援しているようだった

 初回いきなり中田翔の2ランが飛び出して、浦野を援護してくれた。中田はなぜか浦野が投げると打つ。「同学年」の不思議な縁(えにし)だ。といって1回裏、浦野のピッチングがスイスイ行けたわけじゃない。先頭・駿太に二塁打を喫し、苦しいマウンドだった。浦野はとにかくていねいに投げた。決め球にもカウント球にも使うフォーク、タイミングをずらすカーブ、高めを突くストレート。心を込めて投げるという感じだ。一球一球、その心がボールに乗っている。それが伝わってくるようだった。

 1回無死二塁、2回無死一、二塁、3回二死一、二塁。序盤は毎回、得点圏にランナーを出している。守る野手としたらトントン行かず、テンポが悪いはずだ。それでも皆、すごく集中していた。チーム全員が浦野を勝たせたいのだ。野球選手だって人間だ。死にもの狂いで這い上がってきた仲間を何とかして勝たせたい。誰が投げたって勝利を目指すことに変わりはない(勝てば皆の給料にもはね返る)のだが、気持ちの問題なのだ。プロ野球では1シーズンに何度か、チーム全員がひとりの選手を応援してるように見えることがある。5月5日の試合はそういう野球だった。

 「すごく嬉しいです。去年、ケガで1年間ダメだったので……、そのときに色々な方にお世話になったので、感謝の気持ちを全部出せるようにマウンドに立ちました」(ヒーローインタビューより)

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 言葉自体はウェットな感じでなく、淡々としていた。表情もいつものようにチュートリアル・福田充徳にちょっと似たにこやかなものだった。照れ屋だ。「ホントにもう、(野球生命が)終わったのかなと思ったんですけど……」、そんな重い言葉さえ微笑んで言う。「よう頑張ったぞ〜」、関西弁のヤジがインタビューにかぶった。浦野は目を潤ませる。TVカメラにもインタビュアーにも視線を合わせない。

 おかえりなさい、浦野博司! 投手がマウンドに立ち、投球する。何の変哲もない当たり前のことがどんなにすごいことか。おめでとう、素晴らしいカムバックだった。復活のマウンドは幸運の女神も味方してくれた。中田の一発が打球が上がらず、T-岡田のライト前ヒットがボールの下を叩いてたら結果は逆だったかもしれない。次はもっとがんばれ。1イニングでも1アウトでも長く投げてほしいのだ。

T-岡田の阪急ブレーブス復刻ユニフォーム ©えのきどいちろう

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