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【日本ハム】5月5日、チーム全員が浦野博司を応援した日

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感動的だった695日ぶりの勝ち星

 ゴールデンウィーク後半は5連勝を飾り、だいぶ持ち直してきたファイターズである。中田翔、レアード、大田泰示と右打者が仕事をしてくれるのが大きい。主戦投手・有原航平にもようやく勝ちがついた。近藤健介、中島卓也の負傷欠場は残念だが、代わりにスタメン入りした矢野謙次、石井一成が活躍している。悪くない循環だ。

 そのなかでいちばん感動的だったドラマは、浦野博司の復活劇だと思う。5月5日の京セラドーム大阪だ。5回0/3、打者22人、球数72球、被安打6。初回からピンチの連続だったが、ていねいに投げて無失点で切り抜けた。実に695日ぶりの勝ち星だった。2015年6月10日、巨人戦以来の勝利。

695日ぶりに勝ち星を挙げ、インタビューに答える浦野博司 ©時事通信社

 つまり、それはこういうことだ。ファイターズが10年ぶりの日本一に輝き、大谷翔平の大活躍に酔った2016年シーズン、浦野は全くの蚊帳の外だった。何もしていない。1勝もできないどころか選手生命の危機だった。右肩のインピンジメント症候群。チームの歓喜をよそに浦野は絶望の暗闇をさまよっていた。リハビリにつき合ってくれたトレーナー、それから家族、友人の支えが暗闇を照らす灯だった。

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 インピンジメント症候群。「インピンジメント」は挟み込みという意味だ。昔はざっくり肩痛と総称されていたが、肩痛にも色々な種類がある。浦野の症状は報道された範囲でしか知り得ないが、おそらく最初は動かす際に骨が衝突するか筋肉が腱板に挟み込まれる等して、激痛に襲われたのだと思われる。投手の職業病だ。軽ければ炎症が鎮まるまで保存療法、それから機能回復のリハビリが始まる。浦野は「肩の骨が血行障害によって壊死していた」という報じられ方をしたから、軽いものではあり得ない。今年2月、HBCラジオの情報番組『ファイターズDEナイト!!』の取材で明らかになった。

引退も考えた苦しいリハビリ期間

 僕は昨シーズン前半戦、浦野博司、中村勝、上沢直之が出てきてくれないかなぁと思っていた。実績のある先発右腕だ。キャリアハイは全員同じ2014年シーズンで、浦野7勝、中村8勝、上沢8勝。そのうちに浦野はどうも肩痛らしいとの噂を耳にして、あぁ厄介だなぁと感じていた。肘と違ってメスが入れられない。投手の手術例はあんまり聞かないのだ。それだけ肩は複雑な構造で保たれている。先発ローテはいつしか高梨裕稔や加藤貴之といった新しく台頭した投手が埋めるようになる。それで僕も「11.5差からの逆転優勝」に夢中になっていった。

 浦野はその間、本当に苦しんだのだ。去年6月、7月はノースローだ。投手が投げられないことがどんなにつらいことか。野球はもう無理かもしれなかった。リハビリを始めた頃、「もう治らないかもしれない。引退も考えている」と奥さんに打ち明けたそうだ。そのときの奥さんが泣けてくる。明るい笑顔で「治るよ」と言ってくれた。そのひと言がなかったら僕らは浦野博司のピッチングを見られなかったかもしれない。

 リハビリはおそろしく単調だ。チューブトレーニング等でインナーマッスルを鍛え、機能を補えるようにする。日常生活が送れるレベルじゃどうにもならない。プロ野球の投手なのだ。求めるもののハードルはものすごく高い。肩に負担のかからないフォームは武田久がアドバイスしてくれた。動かせるメドが立ってからも、肩痛はいつ再び襲ってくるか恐怖感との闘いだ。気が遠くなるほどの道のりを越えて、浦野は復活のマウンドに立った。

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