将棋界に現れた新星・藤井聡太四段14歳。中学3年の少年は、昨年10月に加藤一二三九段76歳(当時)が持っていたプロ棋士デビュー最年少記録を62年ぶりに更新すると、プロ初戦でその加藤九段に勝利、以後公式戦16連勝(5月8日現在)と勝ち続け、ワイドショーでも取り上げられる存在となっている。

 そんな藤井四段をプロデビュー前から見続け、電子書籍『藤井聡太四段 14歳プロは羽生を超えるか』(文春e-Books)の著者でもある松本博文さんに、その素顔や強さの秘密について聞いた。

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 普段の藤井四段は、本当に普通の中学生です。「学校では友達と将棋の話はあまりしません」と言っていましたし、お母さんの裕子さんは「朝なかなか起きてくれなくて困るんです」と笑って話していました。ただ将棋のことは本当に好きで、5歳で駒の動かし方を覚えて、お祖母さん、お祖父さんと対局するようになってからは、勝つのが楽しくて、将棋ばかりやっていたそうです。

 藤井さんにインタビューすると、こちらの質問を聞いた後、自分なりの確信を持つまでじっと考えて、誠実に答えてくれるんですけれど、その姿は彼の棋風に通じるところがあります。将棋に関しては、自分なりの考えをきちんと持っていて、先日、王将戦七番勝負の一局についての感想を聞いてみたところ、その対局は終盤がすごい熱戦だったんですけれど、それについて自分なりの見方を非常にしっかり話してくれました。

“天才”以外に形容する言葉が見つからない

 世間ではまだ中学3年になったばかりということもあって、藤井四段の活躍は驚きをもって受け止められているようですけれど、彼を見続けてきた人たちからすれば、意外感はありません。藤井さんを表現するには、陳腐になってしまいますが“天才”しかない。将棋界は才能を持った人間の集まりですから“天才”の基準は厳しい。そんな中でも藤井さんは、規格外の存在、まさに天才なんです。

5月4日に公式戦16連勝目をあげた藤井四段 ©共同通信社

 藤井四段は、中学2年、14歳2カ月でプロデビューしました。これまで中学生でプロ棋士となったのは、加藤さん、谷川浩司さん、羽生善治さん、渡辺明さんの4人だけ。将棋界は大器晩成がほぼ実現しない、早熟なことは才能の証明という世界でもあるんです。

 私が藤井さんに注目するようになったのは、プロも参加する詰将棋解答選手権に小学2年の彼が出場して、難問を解いていたと聞いて以来です。そんな小学生なんてこれまでいませんでしたから、知り合いの棋士に感想を聞いたら「彼は天才だよ」と即答され、これにも驚きました。社交辞令ではともかく、仲間内で滅多に使わない“天才”という表現で、才能を認めたのですから本物だと確信しました。師匠の杉本昌隆七段も「藤井には小学1年で初めて会った時から才能を感じた。ほかにはそんな子はいない」と言っていました。

 藤井さんのプロデビュー最年少記録やデビューからの連勝記録が注目されていますが、彼は奨励会での初段、二段、三段の昇段最年少記録も更新しているんです。詰将棋選手権でも、2015年に小学6年で優勝して、すでに3連覇を達成している。今年は解答表記上のケアレスミスもあったのですが、制限時間90分の第一ラウンドを24分で解き終わるなど、実質的に圧勝でした。

 藤井四段はプロデビューして半年なんですけど、すでに将棋界でさまざまな記録を更新してきた棋士なんですよ。