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「炎の七番勝負」での驚くべき戦いぶり

 公式戦の連勝記録が注目される藤井四段だが、公式戦以外で、その実力を世間に知らしめた大会がある。今年の3月から4月にかけてAbemaTVが藤井四段のために企画した「藤井聡太四段炎の七番勝負」での戦いぶりだ。

 この企画で藤井四段は、増田康宏四段、永瀬拓矢六段、斎藤慎太郎七段(対局当時六段)、中村太地六段、深浦康市九段、佐藤康光九段、羽生善治三冠と対局、羽生との初対決にも勝利し、6勝1敗という驚くべき結果を残した。

 ファンの予想投票は藤井さんの0~2勝が44パーセントと、藤井さんが苦戦するという見方が多かった。でも、藤井さんの師匠の杉本さんは「全勝の可能性もある」と言っていたんです。私もいい勝負をすると思っていました。

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 将棋は必ずしも経験があるほうが有利という競技ではありません。若い棋士というと未知数で、荒削りといったイメージがあるかもしれませんが、藤井さんはそうではない。勢いだけではなく、技術的な裏打ちがあって勝ってきている、棋士として完成されている感じです。「炎の七番勝負」でも、第五局の深浦九段戦の感想戦で、深浦九段が示す手に対して、藤井さんがそれをことごとく正確に対応してみせて、深浦九段と解説の橋本崇載八段が絶句していたほどです。

 藤井将棋の特長のひとつは異次元と言われる終盤の「寄せ」の速さです。「炎の七番勝負」でも、第四局の中村六段戦で解説の鈴木大介九段は「終盤のスピード感と安定感が素晴らしい」と称賛していました。

史上最年少タイトル獲得への期待

 面白いもので、将棋界では新世代の強い棋士が出てくると、必ず「これまでよりスピードが速い」と言われる。これは戦後間もなく、新時代の天才の升田幸三八段が出てきて無敵の木村義雄名人を破った時も同じでした。谷川さん、羽生さんがデビューして勝ち始めた当時も、こんな速い将棋は見たことがないと評された。余談ですが、現代のコンピュータ将棋ソフトの指し筋も、鋭い攻めが特長だと言われています。この時代の将棋界に藤井さんが出てきたのも巡り合わせを感じてしまいます。
 
 初対戦の後、羽生三冠に「いまの時点でも非常に強いと思うが、ここからどのぐらい伸びていくか。すごい人が現れたなと思いました」と言わしめた藤井四段。史上最年少でのタイトル獲得への期待も高まっている。

 将棋界では早熟であることは才能、同じ四段なら若いほうが格が上という世界なんです。そこで史上最年少でプロになった藤井四段が、この先、低迷するといったことは、ちょっと考えられない。デビューからの連勝記録はいつか止まるでしょうが、トータルではこのままの調子で勝ち続けて、近い将来タイトルを獲得すると思います。

 羽生三冠が初タイトルの竜王位を獲得したのが19歳、屋敷伸之九段の史上最年少タイトル獲得記録が18歳、藤井四段はまだ14歳ですから、これらの記録更新の可能性もあります。

筆者の松本博文さん(フリーライター) ©文藝春秋

 神武以来の天才と謳われる加藤一二三九段がプロになった1954年に初代ゴジラが登場しているんです。62年ぶりにその記録を更新した藤井四段は将棋界に現れたシン・ゴジラなのかもしれません。

まつもと・ひろふみ(フリーライター)
1973年、山口県生まれ。93年、東京大学に入学、将棋部に所属。在学中から将棋書籍の編集に従事。卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げにかかわり、日本将棋連盟などのネット中継にも参加。2014年にデビュー作『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)を上梓。同著で第27回将棋ペンクラブ大賞(文藝部門)を受賞。藤井聡太四段をプロデビュー前から見続け、本人や家族にもインタビュー取材した雑誌記事と書き下ろし原稿をまとめた電子書籍 『藤井聡太四段 14歳プロは羽生を超えるか』(文春e-Books)を先日、刊行した。著書に『東大駒場寮物語』(角川書店)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)などがある。