ファッションも「郷に入りては郷に従う」女―『プラダを着た悪魔』
では、『プラダを着た悪魔』の場合はどうでしょうか。主人公は、ジャーナリスト志望なのに、うっかり超有名ファッション雑誌『ランウェイ』の編集部で働くことになったアンドレア。ランウェイを自動車雑誌だと思っていたくらいのファッション音痴で、編集部員たちにも「ファッションセンスがゼロ」「みっともない子」と、ひどい言われよう。彼女の方でも、ファッションフリークをかなり軽蔑しており、まるで迎合する気ナシ。「ファッションの仕事をずっと続ける気はないから変える必要もないでしょ」とも発言しています。
しかし! 彼女はダサい自分を封印することに決めます。なぜなら、オシャレにすることが、この編集部では趣味ではなく「仕事」の一部だと理解したからです。「郷に入りては郷に従え」を地でいくアンドレアは、やがて、「プラダを着た悪魔」であるところの鬼編集長の信頼を勝ち取るのですが、あっさり仕事を辞め、新聞社に転職します(服装も、以前よりはオシャレですが、元に戻っている)。
「型破り」という言葉がありますが、彼女はいったん「型」に入り、しかるのち型を破ったのです。型に入ると決めてからのアンドレアは、恋人から「以前の服が好きだ」と非難されても、決してオシャレすることをやめませんでした。決して服装を変えようとしないエリンとは正反対ですが、アンドレアはアンドレアで、すごく勇気のある人です。そして、その勇気を持てたから、ファッション業界の頂点に君臨する編集長に褒められても、あっさり編集部を去り、再びジャーナリストの道を目指すことができたのでしょう。
ファッションとは、センスの問題というより、勇気と決断の問題である。ふたつの映画を観ると、そんな風に感じます。好きな服を着るにせよ、自分を殺して組織に合わせるにせよ、そこに「自分の意思」がしっかりあること。これが大事なんじゃないでしょうか。イケてようが、ダサかろうが、どうせ外野は、あーだこーだ好き勝手なことを言ってくるのですから。