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ゴーン会見「2017年以降、日産の成長は止まった」はなぜ詭弁なのか

「陰謀やクーデター」をことさら強調する理由は――

2020/01/09

主要市場の米国で値引きしないとクルマが売れない

 この1400万台のうち900万台を共通のアーキテクチャーで生産することで量産効果を生み出し、エンジンも31種類あるうち21種類を共通化することなどによって、開発投資の重複を避けてシナジー効果を生み出すことを狙った。

 ゴーン氏は2017年4月、日産社長兼CEOのポストを西川廣人氏に譲り、自身は「アライアンス会長」という名刺を持ち、3社の司令塔、すなわち最高権力者の地位にあった。打ち出したアライアンスの中期経営計画は一見、立派な成長戦略に見えたが、その実態は、新車にかける開発投資を絞り、早く安く、チープなクルマを量産していくことだった。

 この結果、日産は主要市場の米国で値引きしないとクルマが売れなくなり、値引きして販売した新車が大量に中古車市場に流れたことで中古車価格も落ち、それがさらに新車価格をも落とす悪循環に陥った。完全にゴーン氏の戦略の誤りと言える。同様に「ダットサン」も商品力が弱く、インドやインドネシアではまったく売れず、失敗プロジェクトに終わった。

©getty

「陰謀やクーデタ-」であることを強調したが……

 失敗が露呈する前に、言い方を変えれば業績が落ち始めるのは分かったうえで、執行のトップである日産社長兼CEOというポストを西川氏に譲ったのである。本質的な原因を追求しない人からすれば、2017年4月以降は西川氏が社長なのだから、業績悪化は西川氏の責任ということになる。こうした点が筆者の指摘するゴーン氏の狡猾さだ。

 また、記者会見では、ゴーン氏はこれまで通り、日本の司法制度の「不公正さ」などを指摘。保釈後もキャロル夫人との面会が禁止されたことが人道上問題であることにも言及した。確かに、日本の司法制度は「人質司法」などと指摘され、勾留期間が長いと批判されることもある。この問題は、ゴーン氏の事件だけにあてはまることではない。

 司法制度への批判は、ゴーン氏自身がやった不正や不法行為を覆い隠すため、あるいは論点をすり替えるための詭弁に過ぎないと感じた。報酬の虚偽記載や特別背任など刑事事件として立件された経緯についても「陰謀やクーデタ-」であることを強調した。

 筆者は、ゴーン氏の事件がクーデターか否かと聞かれれば、「クーデター」と答える。クーデターの解釈はいろいろあるが、ゴーン氏の側近らが不正調査を行い、私的流用を突き止め、司法取引に応じ、検察と協力して立件したことは間違いなく、結果として「部下に刺された」形になるからだ。