事実を覆い隠そうとするためではないか
特別背任は権力者による犯罪である。こうしたケースでは、内部通報、司法取引、密告などの手段で事件が露呈する。権力者は、不正を覆い隠せるほどの力を持つから、こうした手段が用いられる。司法取引も、トカゲのしっぽ切りにならないようにするための制度だ。
肝心なことは、手段ではなく、犯罪事実があったかどうかだ。ゴーン氏が陰謀やクーデターをことさら強調するのは、事実を覆い隠そうとするためではないかと見えてしまう。事実認定を争う裁判では勝ち目がないと見て、ゴーン氏は逃亡したのではないか。
ゴーン被告のプレゼンの特長の一つは、得意げな表情で身振り手振りを交えながらまくしたてるように、語ることだ。
筆者はゴーン被告に何度もインタビューしているのでその光景を何度も間近に見てきた。
親しい記者には「Oh! My Friend」
今回もそれには変わりはなかったが、二つ違うことがあった。まずは、表情が暗かったし、眉間にしわが寄っていたことだ。「私にとって今日は大切な日」と言ったゴーン被告だが、なんだかいら立っているように見えた。その理由は分からない。
続いて、2時間25分もの間多くを語りながら、中身が薄かったことだ。ゴーン被告が経営トップ時代、30分のインタビューで原稿用紙10枚分の原稿が書けるほど中身が濃密なことが多かった。自分への嫌疑について、詭弁と論点すり替えの連続だったからだろう。
一方、相変わらずだったこともあった。ゴーン被告は親しい記者には「Oh! My friend」とか「I know your face」と言うことがある。
昨日の会見でも、「Oh! My friend」、「私はあなたがBBCの記者だと知っている」と言っていた。自分に友好的なメディアを選別したことは分かっていたが、その発言からも感じ取れた。無罪や日本の司法制度の課題を主張するのであれば、オープンな記者会見にすべきだった。不都合なことを聞かれたくないから、ゴーン氏側でメディアを選別したのであろう。
繰り返すが、今回のゴーン氏の記者会見からは、狡猾、詭弁、論点のすり替え、メディアの選別といった悪いイメージしかない。筆者はゴーン氏の経営者としての実績を否定するつもりは毛頭ない。日産を再建した功績も否定しない。しかし、今回の記者会見の内容は、これまでのゴーン氏の「看板」をさらに汚すものになったと筆者は感じる。