5月病を吹き飛ばす背番号49の出現

 プロ野球ファンにも憂鬱な「5月病」はある。

 開幕前は新シーズンへ期待に胸踊らせていたはずが、実際にペナントレースが始まると様々な問題に直面する。毎日が「こんなはずじゃなかった……」の連続だ。巨人で言えば、新加入のFA移籍組はまったく戦力になってないし、長野久義が得点圏で20打数無安打と極度の打撃不振に陥り、WBCで“バントのコバちゃん”旋風を巻き起こした小林誠司も打率1割台に低迷。期待の3年目スラッガー岡本和真は不慣れなレフト守備に苦しみ、すでに2軍送りとなった。

「なんかクリーンナップ以外はパッとしない打線だねぇ」

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 今季、東京ドームで巨人戦を観戦していると、客席ではよくそんな声が聞こえて来る。「ビールはどうせなら可愛い子から買いたいよな〜」と同じで球場のおっちゃんの生の声はヒリヒリするくらい剥き出しだ。マジ痛いところを突いてくる。ここまで33試合消化して、3番坂本勇人、4番阿部慎之助、5番マギーのクリーンナップで計18本塁打70打点の荒稼ぎ。だが前後を固める打者が弱いため、この3人が抑えられてしまうとどうにもならないこの感じ。12球団トップのチーム防御率2.86を誇りながらも、リーグ順位は3位だ。

 こんな時こそ、新世代の突き上げが欲しい。由伸監督は開幕から中井大介を二塁でスタメン起用し続けているが、超不安定な守備面を考えると、相当我慢しながら使っているように見える。……っていやいやドラ1ルーキーを育てるみたいな雰囲気だけど、中井はプロ10年目の27歳だからね。ちなみに昨年25年ぶりのリーグ優勝に輝いた広島の田中広輔(89年7月生)、菊池涼介(90年3月生)、丸佳浩(89年4月生)たちと同学年である。プロ野球チームも一般企業も、30代じゃなくこの年代が主力として定着できないと未来は暗い。

 頼むよ誰か期待の若手出て来いや〜って、そんな時、颯爽と現れたのが“ダイナマイトシンゴ”こと石川慎吾である。

昨オフに日本ハムからトレードで移籍してきた石川慎吾 ©時事通信社

二岡+矢野=石川慎吾?

 昨オフ、2対2のトレードで日本ハムから吉川光夫とともに移籍。プロ6年目の背番号49は、ここまで打率.304、3本、7打点、OPS.867と堂々たる成績だ。安打数、本塁打数はすでに自己最多を更新。10日の阪神戦ではついに移籍後初の1番レフト起用。昨季は25歳以下が本塁打数0だったチーム状況において、2戦連発アーチを放ったりと救世主的な活躍を見せている。右打席からライトスタンドへ運ぶ打撃フォームは往年の二岡智宏(現打撃コーチ)を彷彿とさせ、ムードメーカー的な明るい性格は矢野謙次(現日本ハム)の若手時代を思い出させる。まさに巨人ファンはずっとこんな若手選手の出現に飢えていた。

 先日、キャプテン坂本がスポーツニュースを通して「ジャイアンツの若手は遠慮せずにもっと自分に話を聞きにこい」という主旨の発言をしていたが、石川は春季キャンプからその坂本にも貪欲にアドバイスを求め、見事結果に繋げてみせた。さらに日本テレビ系列で毎週土曜朝に放送される『ズムサタ プロ野球熱ケツ情報』では、巨人OBリポーター宮本和知に「もしも連休がもらえたら?」と聞かれると、「家です! 僕、鬼のインドア派なんで。趣味もないし、人ごみも嫌い」なんて笑ってみせる物怖じしないトークが話題に。プロ野球中継が地上波から消えつつある今、この番組をきっかけに石川を知ったという新しいファンは多い。

 明るく自由でハングリーな24歳。誤解を恐れずに書けば、石川慎吾という選手は巨人らしくないのだ。ベテランのFA選手でも、巨人に移籍するとヒゲを剃り髪を黒く染め、マスコミの多さや注目度の高さから大人しくなってしまう選手が多い中、石川はいい意味で巨人に同化していない。プレイボール直前に誰よりも勢いよく元気ハツラツで守備位置まで走り、打席でも初球からあれだけのフルスイングをできる選手は今のチームでこの男しかいないだろう。