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「私の映画の底にあるのは不安なんです」超話題作『パラサイト』ポン・ジュノ監督に町山智浩が迫る!

カンヌ映画祭パルムドール受賞作が描いたものとは?

2020/01/10
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「今までの韓国では、冠婚葬祭で親戚が集まると若い人は聞かれるわけです。大学は? 仕事はどう? 結婚はまだ? 子供は? って。でも今はそういうプレッシャーをかけるのはやめようという動きが起こっています」

 韓国の若者の非婚率、少子化は日本以上に悪化している。

「『パラサイト』で、ソン・ガンホが息子に自分の人生論を語ります。『何も計画しないことが最高の計画だ』。あれは韓国の人々にとってはショッキングなセリフです。韓国の父親はずっと自分の子供に人生の計画を立てろと言ってきたからです。でも、ソン・ガンホは人生のどん底で『計画してもムダだ』と言うんです。悲しい言葉です」

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 裏切られてきた者の失望の言葉だ。

誰もモンスターと戦わない

 去年公開されたイ・チャンドン監督の『バーニング 劇場版』も、村上春樹の短編を原作にしながら、現在の韓国の格差社会を描いていた。

「『バーニング』が公開された時、僕は『パラサイト』の撮影中だったんで観られなかったんですが、半年くらい後でやっと観たんです。『万引き家族』と同じ頃に。どちらの映画も『パラサイト』と同じ視点で現代の社会を見ていると知って嬉しかったです」

『バーニング 劇場版』 販売元:ツイン

『バーニング』の主人公は非正規労働で暮らす農家の息子。愛した幼馴染の女性を金持ちの青年に奪われ、最後は『パラサイト』と同じ惨劇に終わる。富裕層は憎むべき悪役なのか?

「いや、そうじゃない。『パラサイト』においてすべての登場人物は善玉悪玉どちらでもないグレーゾーンにあります。金持ち一家も、貧乏一家も別に悪人じゃない。それなのに、なぜ、こんな惨劇が起こってしまうのか? それこそがこの映画が観客に突きつけた問いなんです。『バーニング』の結末もまた、そうだと思います。この惨劇は、もっと大きな視点から見てほしい」

『グエムル 漢江の怪物』では、ソン・ガンホ扮するダメ親父が家族と一緒にモンスターと戦う。『パラサイト』におけるモンスターとは何なのか?

「この格差がもっと広がることへの恐怖、それこそがこの映画の本当のモンスターです。そしてもっと恐ろしいのは、誰もそのモンスター自体と戦おうとしないことです。戦わないどころか、人々はこのモンスターを直視しない。必死に見て見ぬ振りをしています。『パラサイト』の惨劇の理由はそれです。みんな、このモンスターに飲み込まれているんです」

町山智浩/まちやまともひろ 
1962年生まれ。映画評論家。米カリフォルニア州バークレー在住。週刊文春での連載をまとめた最新刊『アメリカ炎上通信 言霊USA XXL』(文藝春秋)が発売中! BS朝日「町山智浩のアメリカの今を知るTV in Association With CNN」は毎週月曜日21時~放映中。

アメリカ炎上通信 言霊USA XXL

町山 智浩

文藝春秋

2019年9月27日 発売

「私の映画の底にあるのは不安なんです」超話題作『パラサイト』ポン・ジュノ監督に町山智浩が迫る!

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