貧困はじわじわと身近に、リッチ層はより金持ちに。空前の好景気といわれる半面「格差社会」はどこまで進むのでしょうか。今年、文春オンラインで紹介した書籍から格差をテーマにした本をピックアップして紹介します。
池上彰さんが読む「超富豪と下流の問題」を突いた本
「ときにアメリカに対して絶望的な気分になりますが、他方でアメリカの強さも知ることができるのです」と、池上彰さんが紹介するのは『超一極集中社会アメリカの暴走』。富めるものはますます……というのは世界的な傾向のようですが、なかでもアメリカの偏在ぶりは桁外れ。上位0.01%の年間平均所得は、約32億円、しかも、上位0.1%より下は、1980年代以降、所得が増えていないとは。
・書評
上位0.1%の超富裕層がますます金持ちに。アメリカ“強欲資本主義”の現実
池上彰が『超一極集中社会アメリカの暴走』(小林由美・著)を読む
2兆円の資産を持つ社長と時給1000円の売り場。ユニクロの現場から見えること
『ユニクロ潜入一年』を書評した武田徹さんは「批評的ジャーナリズムにどう向き合うかで企業の胆力が推し量れる」と書いています。ユニクロ・柳井社長の総資産は2兆円といわれる一方、もっとも忙しい売り場でも時給1000円。柳井社長の「うちの会社で働いてもらって、どういう企業なのかをぜひ体験してもらいたいですね」と述べているのを読んだ著者が、その「招待」に応えて売り場に入った体験から経営手法までに切り込んでいます。その問いにユニクロはどう向き合うでしょうか。
・書評
「ユニクロで働く」とはこういうことなのか
武田徹が『ユニクロ潜入一年』(横田増生 著)を読む
なぜ高額所得者はふるさと納税に熱心なのか?
高額所得者がタワマンを購入し、ふるさと納税を積極的に利用するのには理由があります。『ルポ 税金地獄』で節税に走るお金持ちと、対策を持たない中・下流層との格差を指摘した朝日新聞記者が自著を解説します。社会資財の偏りをならすためにあった税金が、どんどん格差を広げる要因になっているとは驚きです。
・著者の解説
日本の税金は不平等 富裕層がトクをして庶民は貧しくなる理由
『ルポ 税金地獄』が明らかにする驚きの事実とは
格差社会で「一人っ子政策」がもたらす悲劇
所得格差が生んだ嬰児の誘拐ビジネス。中国でこの問題を取材したジャーナリストの富坂聰さんは、中国系アメリカ人ジャーナリストが書いた『中国「絶望」家族』を取り上げ、「晩年に失政の多い毛沢東の残した負の遺産、多産化政策を『悪』とするあまり、人口抑制政策を手放しで肯定してきた誤りだ」と評しています。経済発展、軍備拡大に注目が集まる国で、個々の家族が苦しむ姿ははたして先進的といえるのでしょうか。
・書評
結婚できない男、捨てられる老人……中国「一人っ子政策」は間違っていたのか
富坂聰が『中国「絶望」家族』(メイ・フォン 著)を読む
没後50年のゲバラが今年注目された理由とは
社会の極端な格差に、革命を選んだ国があります。今年没後50年を迎えた革命の象徴を、海堂尊さんは『ゲバラ漂流 ポーラースター』として小説に、監督・阪本順治さんは映画「エルネスト」に登場させています。ゲバラを巡る対談の中で、海堂さんは当時の中南米を「現代の私たちが置かれている状況と似ていると思うんです」と指摘し、阪本さんは「ゲバラも(中略)医師として中南米にある医療格差をなくしたいという思いがあったんでしょうね」と、語っています。
・対談
海堂尊×阪本順治「革命家ゲバラの存在を通じて、日本人に伝えたいこと」
『ゲバラ漂流 ポーラースター』(海堂 尊 著)刊行記念対談