「『スノーピアサー』を製作中、富裕層と貧困層の格差というテーマに深く入り込んでいたので、自然に『パラサイト』のアイデアが出てきました。でも、自分が大学生だった頃の経験も元になっています。私も、この映画みたいに家庭教師をしていたんですよ。いちど、大金持ちの家の家庭教師をしたことがあります。サウナまである豪邸でした。僕はその家族にスパイみたいに浸透していく気持ちになったことをよく覚えています」
ソン・ガンホの危険な魅力
ポン・ジュノは1969年、グラフィック・デザイナーの息子に生まれた。
「それほどお金持ちじゃなかったですよ。この映画の金持ちの家と貧乏な家との中間くらいの家でした」
パク家は金融関係で財を成し、見晴らしのいい丘の上に二階建ての豪邸を構え、家政婦に家事を任せ、お抱え運転手までいる。キム家は半地下のアパートに住み、窓から路上の立ち小便が入ってくる始末。同じ韓国人の家族でありながら天と地のように違う。
「なぜか自分の映画の多くは家族についての物語です。それもいびつな家族です。ディズニー映画に出てくるような家族はいつだって完璧で、まるで天国のようなものとして描かれます。でも、私は、家族は壊れやすいガラスのようなもので、いつ壊れてしまうかわからないものと考え、そこから物語を広げていくんです。私の映画は、コメディ的なシーンでも悲劇的なシーンでも、いつもその底にあるのは不安です。家族という壊れやすいものへの不安です」
失業中のキム家の父親を演じるはポン・ジュノ映画の常連、ソン・ガンホ。『グエムル 漢江の怪物』の父親役と同じで、家族を食わせる生活力はなく、実に頼りない。
「ソン・ガンホはヒーローではない。いつもダメな父親で、頭も良くないし、乱暴だったりもするけれど、どうしても憎めない存在です。完璧じゃない。どこか抜けていて。でも決して嫌いになれない。物語のなかで彼はいつも難しい状況に追い込まれます。観客はいつのまにかガンホに吸い込まれて、彼になりきって、その困難を経験させられます。彼の顔を見て、あの目を見ただけで、観客は彼の中に入ってしまう。たとえ彼が犯罪を犯すことになっても、観客は彼を応援してしまいます。それがソン・ガンホの危険な魅力です。それがソン・ガンホの俳優としての素晴らしさです」