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貧しい人々は洪水に沈む

 ソン・ガンホと並ぶポン・ジュノ映画の常連は雨だ。彼の映画では重要な場面で雨が降る。『殺人の追憶』の連続殺人者は雨の日にしか人を殺さない。『パラサイト』では旧約聖書にあるような大雨が降る。

「この映画にとって雨、そして水は、最も重要な視覚的要素です。水は高いところから低いところに向かって流れるでしょう? この映画には縦の階層があります。金持ちの家は二階建てで、地下にも二階あります。そして、金持ちの家は山の手にあり、坂のはるか下のほう、いちばん低いところに貧しい人々が住み、そのさらに半地下にソン・ガンホたちは暮らしている。水は上から下に流れ、決してその逆には行きません。そして貧しい人々は洪水で沈むんです」

『パラサイト』の最初のタイトルは「デカルコマニア」だったという。

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「デカルコマニア、幼稚園や小学校低学年の頃、やりませんでした? 二つに折った紙の片方に絵の具で何かを描いて、紙の左右を合わせて開くと反対側に絵の具がついて、左右対称の絵ができる。ロールシャッハ・テストみたいに。これで蝶々の絵を作ったりするんですが。この絵は一見左右対称ですが、よく見ると左右は完璧に同じじゃない。それはこの映画のキム一家とパク一家の比喩になると思ったんです」

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『パラサイト』がカンヌ映画祭で公開された今年の春、アメリカでも似たような映画が公開されていた。ジョーダン・ピール監督の『アス』。裕福なウィルソン一家の別荘が、ある夜、ウィルソン一家そっくりの四人家族に襲われる。地下に閉じ込められ、奴隷のように暮らしてきた彼らは地上の豊かな人々に反乱を起こしたのだ。

「『アス』の予告編を観て驚きました。あちらはホラー映画ですけど、『パラサイト』と同じテーマに取り組んでいます。それはジョーダン・ピールだけではありません」

 2017年のカンヌ映画祭でパルム・ドールに輝いたイギリスのケン・ローチ監督による『わたしは、ダニエル・ブレイク』は、福祉切り捨てによって追い詰められた貧困層の人々が身を寄せ合うようにして疑似家族を作り、生き延びようとする物語だった。次の2018年のカンヌ映画祭でパルム・ドールを獲得した是枝裕和監督の『万引き家族』は、貧困の底で、家族から見捨てられた人々がやはり身を寄せ合って疑似家族を作り、万引きで暮らしていく物語だった。アメリカ、イギリス、韓国、日本で、貧富の格差が広がる社会における家族をテーマにした映画がほとんど同時に作られたわけだ。

「是枝監督とは友人で、よく会って話をするんですが、別に僕らは話し合って、貧困家庭の金持ちとの戦いを描こう! なんてスローガン掲げて共闘しているわけじゃないです。ただ、それぞれの監督がそれぞれに作った映画がたまたま同じ方向を向いていたんです。アーティストはいつだって自分が生きているその時代を作品に反映させようとするからですよ。私たちはみんなこの大きな資本主義の世界に生きているんですから」 

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 しかし、特に韓国における格差の拡大は急激だという。   

「韓国では最近の社会の変化があまりに激しく、早すぎるんです」

 韓国人は戦後、真面目に勉強して、いい大学に入って、一生懸命働けば、みんな豊かで幸福になれると信じて、高度成長を成し遂げた。しかし、1997年にバブルが弾け、構造改革が始まってから社会は大きく変わった。サムスンやヒュンダイなど巨大企業に富が集中し、中小企業や農家は見捨てられた。派遣や非正規雇用が増え、貧富の格差が拡大した。貧しい者は貧しく、豊かな者はさらに豊かになる社会で、勤勉と努力だけではどうにもならなくなった。