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奇跡じゃない、ごく普通の本屋として陸前高田・伊東文具店

2015/03/07

genre : エンタメ, 読書

 東日本大震災から4年、津波で大きな被害を受けた岩手県陸前高田市の本屋さん兼文房屋さん、伊東文房具店を訪ねた。

奇跡の一本松。かつては白砂青松の美しい松原が広がっていた。

 東京から新幹線、大船渡線、バスによる仮復旧路線BRT(Bus Rapid Transit)と乗り継いで、陸前高田までは約5時間だ。陸前高田の一つ手前に、奇跡の一本松という停車場があったので、降りてみた。日本の白砂青松100選にも選ばれたという7万本の見事な松原は、今となっては想像することしかできないが、その中で一本だけ残った「奇跡の一本松」は、復興のシンボルとして様々なメディアに取り上げられ、震災復興グッズのデザインにもなっている。

 一部保存される遺構を除いて、被害を受けた建物やがれきは既になく、延々と更地になっていた。山地を削り、土砂を運ぶための巨大なベルトコンベヤが敷設されている。復興計画に基づいてこの平野部にもいくつかの高台が築かれ、一部の地区では今年秋以降、建物が建ちはじめるという。一本松を含む松原も公園として整備し、かつての高田松原で採集された松ぼっくりを育て、植林する計画もある。

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全長数キロに及ぶベルトコンベヤ。

 奇跡の一本松のある海岸部から、伊東文具店のある仮設の商店街までは、およそ3km、次のBRTまでは時間があるので歩いてみることにした。遮るもののないむき出しの土地は乾燥し、土埃が舞う。復興事業のトラックが頻繁に走り、歩いている人はいない。取材時は1月末、幸いにして天気はよかったが、さすがに寒い。この距離を津波がのみ込んでいったのかと思うと、想像を絶する。

プレハブ仮店舗の伊東文具店。

 陸前高田は、市街地のほぼ全域、海岸から数キロに渡って津波の被害を受け、伊東文具店もその店舗を失った。伊東孝会長によると、震災前から、市内にいくつかあった書店も文具店も店を閉め、市内唯一の書店、文具店として地元の方にとって貴重な店になっていたこともあって、新学期の需要に応えるべく、震災から約1ヶ月後には、仮設プレハブの文具売り場を再開、地元の方からの「いつから本屋さんを始めるんですか」という声に応えるべく、同年12月には仮設店舗を移転、書籍売り場も再開されている。現在の売り場は3ヶ所目の仮設店舗として2012年10月から、スーパー、ドラッグストア、銀行の支店、商店や食堂などの店舗の集まるエリアで営業している。

プレハブの商店が集まって商店街を作っている。

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