ますます緊迫する北朝鮮情勢。韓国新大統領就任は、情勢にどんな影響を与えるのだろうか? 韓国「中央日報」の記者として北朝鮮にじつに100回近く取材に訪れ、現在は同社統一文化研究所長を務める李永鐘記者が、「韓国の目線」で北朝鮮を語る。

◆◆◆

 5月9日の大韓民国第19代大統領選挙の結果、左派の文在寅(ムン・ジェイン)政権が誕生しました。早速北朝鮮はこれを狙ったかのような軍事挑発を行っています。

ADVERTISEMENT

 いったい、北朝鮮は韓国の状況をどう観ているのか。逆に韓国は北朝鮮をどう観ているのか。そして日本も含めた国際情勢はどう変わっていくのか。韓国で北朝鮮関連の取材を25年来続けてきた観点から話していきましょう。

韓国大統領選に“敏感な反応”をしてきた北朝鮮

 北朝鮮の立場からすると、韓国の政権交代は「起死回生の機会」と言えるでしょう。対北強硬姿勢だった韓国の保守政権が没落し、9年ぶりに自分たちに友好的な政権が誕生したわけですから。

韓国新大統領、文在寅氏 ©getty

 北としては、なんとしてでも自分たちに強硬な立場の保守政権の持続だけは起きてほしくなかった。実際に金正恩は2012年に保守の朴槿恵氏が当選した際、大きな失望を見せています。「朴槿恵が(韓国国会議員時代の)02年5月に北朝鮮を訪問した際の対話録を暴露する」と圧力をかけてきたくらいですから。

 今回も、選挙活動の間、北朝鮮は過去の大統領選挙時と同じく、自国のメディアで強い誹謗中傷を繰り返してきました。多くは、保守候補で2位の得票数を得た洪準杓候補、あるいは中道といわれ3位だった安哲秀候補への攻撃でした。選挙運動中、保守票の一部が中道の安候補に流れる情報を把握し「破滅の危機にある保守の輩が、最悪を避けるために、なり振りかまわず詭弁をまき散らしている」と強く非難したりもしました。それは、まるで「自分たちも南側の情勢分析くらいできるんだ」と示さんばかりの内容でした。