韓国世論は「冷めている」――低下する“北の影響力”
しかし、選挙期間中、韓国政府の対北関連部署の高位関係者はこんなことも口にしたのです。
「特有の(誹謗の)精巧さが消えてしまった。いったい何をしようとしているのか分からないほどだ」
韓国側には“効いていない”ということです。理由は、北朝鮮内に「大きな絵を描けるような対南ラインをもつ人物がいない」ということ。2015年12月に金養建書記(対南秘書)が死亡(編集者注:交通事故で死亡とされる)して以降、このポストに空白期間があり、その後就任した金英哲統一戦線部長は右往左往している姿が目立つ、と見ているのです。
かつて、韓国の大きな選挙では北朝鮮の“妨害”は大きな要素でした。“北風”あるいは“銃風”と呼ばれるほどで。代表的な事例は、金泳三政権時、96年4月の国会議員選挙前のことです。北が板門店の共同警備区域に侵入。この時は史上初めて首都圏ソウル地域で一位政党の逆転が起きるという大きな出来事がありました。
しかし徐々に選挙時の北の影響力は落ちています。今回は北のメディアがさんざん「ソウルは核の火の海になる」と言い、ミサイルまで撃ってきたが、韓国の世論は「冷めている」というところです。2月中旬にはマレーシアのクアラルンプールで金正男の暗殺事件がありました。この時は韓国大統領選の主要5候補すべてが、わざわざ北朝鮮への非難を表明するという前例のない状況になりました。選挙が近づこうが、あまり北のことを気にかけなくなった、という証です。
“韓日関係”再び悪化か――変化する6カ国の利害関係
なにはさておき、北とすれば文在寅政権の誕生は好都合なわけです。あちらからアクションを取ってくるでしょう。この先は開城工業団地の再開、金剛山の観光再開を通じ、交流・協力の雰囲気をつくって行くとみられます。
南北関係のみならず、いわゆる“6カ国(南北、アメリカ、中国、ロシア、日本)”の関係でも今回の韓国の政権交代はプラスに作用すると見ているはずです。
文在寅政権は、周辺5カ国でかけてきた北朝鮮へのプレッシャーを弱めようというスタンスに出ると思われます。すると、まずは韓・米・日の協調関係に大きなヒビが入るでしょう。
のみならず、この6カ国の関係のうち、韓日関係に変化が出る。文在寅政権は慰安婦問題での再交渉を日本に求めるものと見られています。
日本でも報じられているかもしれませんが、私も韓国からそう感じています。これにより韓日関係の悪化は避けられない。いっぽうで中国との関係悪化は長続きしないものと見ています。朝鮮半島を巡る韓・米・中・日の4カ国関係の利害関係はより複雑化していくでしょう。
もしかしたら、日本のなかでは「左派が反日なの?」という印象をお持ちの方もいるかもしれません。 韓国では右派よりも左派に強い反日意識がある。一般的にそう言ってもいいでしょう。
発端は、日本の統治からの解放後に遡ります。この頃から、韓国では保守の右派が実権を握ってきた。その過程で“親日派(日本統治下で日本に協力して権力を握った層)”の清算をしっかりしてこなかった。ここに韓国左派の反日の根底があります。左派はまた反米・反帝国主義を標榜しており、この点からもおのずと反日の流れが出来てきました。