文春オンライン

フォトジャーナリストが見つめた女性の人生と「風景の原点」

アートな土曜日

2020/01/18
note

 しばしそこに身を置いていて、肌に染み込むようにひしひしと感じられるのは、この星の豊かさのようなものだった。ニコンプラザ新宿「THE GALLERY」の林典子個展「If apricot trees begin to bloom」会場でのこと。

林典子 展示作品より

ナリン川沿いに見た「風景の原型」と「生活の原点」

 ぐるりすべての壁面を、たくさんの写真が埋め尽くしている。そこに写っているのは、キルギスからウズベキスタンへと流れ過ぎるナリン川沿いの風景と、流域に暮らす人たちの営みである。

 はるかに広がる草原と、その彼方には大山脈。大地を穿って川は悠々と、またときに轟々と進む。その傍らに住み着いた人々の生活空間はといえば、ごく質素でささやかなもののようだ。

ADVERTISEMENT

林典子 展示作品より

 写真で観るかぎり、ここには余分なものが何もなく、すべてがいたってシンプルにできている。同時に、あるべきものがあるべき位置に収まっていて、きちんと満ち足りているようにも感じられる。なんというか「風景の原型」と「人の生活の原点」のようなものを、見せつけられているみたい。

林典子 展示作品より

 そんな画面が生まれ出たのは、ナリン川沿いの昔ながらの暮らしにそれだけ無駄がないからなのか、もしくは撮り手たる林の視点がブレずに明確だからか、それともフレームワークをはじめ的確な撮影技術の賜物か。いずれにせよ、どの写真も清々しい空気に満ちているのはまちがいなく、会場にいるだけで、この星はまだこんなに豊かで美しかったかと確認できるのがうれしい。