気を休めることができない二軍用具担当という仕事
二軍の用具担当の朝は早い。デーゲームの多い二軍だけに、7時には球場入りをしてグラウンドで選手たちが練習ができるように準備をする。そして一日、一通りの業務が終わっても仕事は終わらない。一軍のナイターを見て試合が終わるのを待つ。試合後に一軍から一、二軍入れ替えの連絡が入れば、早急にその選手の道具やユニフォームなどを一軍が試合をしている球場に送らないといけない。だから一度、自宅に戻って落ち着いていても気を休めることはできない。携帯電話はいつ鳴ってもいいように手放さない。
翌日、一軍が本拠地でデーゲームの時はたとえ深夜でも二軍球場のロッカーに駆け付け、その選手の荷物一式をピックアップし、ZOZOマリンスタジアムまで車を走らせる。試合のない休みの日でも同じだ。ケガや体調不良などの事態が発生し一、二軍入れ替えが行われる可能性はある。だから、家族で遠出というわけにはいかないのだ。いつでも携帯電話をとれる状況を作り、指示が来るのを待つ。
「大体、試合が終わって2時間後ぐらいですかね、もう大丈夫かなあと思うのは。それまではお風呂にも入らないし、ビールも飲めない。もちろん、寝ることもできません」
そんな日々も充実している。モットーは「先手」。事前に天気予報をしっかりとチェックして、雨予報であれば雨用の道具を手配する。選手入れ替えの可能性やその日の練習メニューも、自分なりにシミュレーションを行い、備える。事前の準備がハマれば充実感が漂う。だから毎日が楽しい。
「一番うれしいのはやっぱり二軍で頑張っていた若い選手が活躍する時ですかね。下で頑張っている姿を見ていますからやっぱり嬉しい。それと人との出会い。用具担当をしていないとランドリー業者の方、運送業者の方、各スポーツメーカーさんとこんなにお話をすることはなかった。それが嬉しいです」
今年3月10日。待望の長女がうまれた。早朝に産気づいた妻を病院まで送り届けると、球場に向かい、いつも通り練習のための準備を重ねた。娘は待ってくれていた。深夜、病院に戻り立ち会うことが出来た。そしてほとんど寝ず、また球場に戻った。その時の嬉しそうな笑顔が忘れられない。
最後にあの日のドラフトの思い出を一つ。会場にいるマスコミ向けに製作し配布する指名選手資料に私は「小池翔太」と記したが、本当は「翔大」。マスコミからミスを指摘され、あたふたしてしまった。だから、なおさらなのか。彼の今の仕事ぶりが気になるし、頑張っている姿に目を細めてしまう。
梶原紀章(千葉ロッテマリーンズ広報)
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