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人生はもともとグロテスクなもの。自分を汚いと思ってしまう人を肯定してあげる小説って優しいと思う。──「作家と90分」東山彰良(後篇)

話題の作家に瀧井朝世さんがみっちりインタビュー

2017/05/28

genre : エンタメ, 読書

note

読者から東山さんへの質問

■東山さんのストーリーの発想方法を知りたいです。最近印象的だった旅もあればお話しききたいです。(30代・女性)

東山 発想はぼんやりしていて、一篇の詩の場合もあるし、歌である場合もありますし、小説でも映画でも、自分ならこうするのにと思ってストーリーをもう一回組み立て直すことから物語を作る方法もあるんじゃないかなと思います。

 最近印象深い旅といえば、僕がテキーラ・マエストロであることを方々で言っていたら、メキシコにあるパトロンという会社の蒸留所から招待されたんです。古い街から郊外に移転して、すごくきれいな宿泊施設もできたんですよ。アシエンダパトロンというところです。招待なのでテキーラ飲み放題で、夢のような時間でした。そのことは西日本新聞に書きました。

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■東山先生にとって、ハードボイルドという文体の目的とは何ですか(10代・男性)

東山 短い文章、言い切りの文章を積み重ねていくとちょっとぶっきらぼうな感じがして、それが主人公の性格を文体で表せますよね。くどくど書くより物語のハードな内容と親和性もいいだろうし。

■あたまは天然パーマですか?(40代・女性)

東山 僕、直毛です。

■作品に取りかかるときに、こういう方に読んでもらいたいというように、読者を細かく想定されますか。(40代・女性)

東山 僕はあまり広い読者を想定しません。スティーヴン・キングの『小説作法』にideal reader(理想の読者)を設定するとあって、キングは妻だと書いてありました。奥さんが読者代表。僕も今まで一貫してそうです。

■『流』のようなテーマで純文学かエンタメ、どちらで書いていくか迷っています。普段、本を読まない方にも手にとってほしい場合は、エンタメのほうが適しているかと思いはじめています。(40代・女性)

東山 今の僕から言えることは、そういうことを意識せずに、自分の書きたいように書けということですね。そうしなければ、書いている本人が楽しくない。

■東山先生はどんな大学生でしたか? 又、どんな大学生活を送ればその後の人生が有意義なものになるとお考えでしょうか。ご教示ください。(20代・男性)

東山 僕は冴えない大学生でした。でもたぶん、無駄なことをいっぱいする大学生活が、その後の人生を有意義にするんじゃないかなと思います。人生の豊かさって全部無駄なものからできている気がするんです。ようは生きていく上で必要ではないけれども、どうしても気になるようなことが、その人を説明するんだと思うんです。ありきたりですけれど、無駄なことをいっぱいやる。

■どんな時に小説のアイデアを思いつくのですか。(40代・男性)

東山 作家はたぶんみなさんそうですけれど、目が覚めている間、あるいは寝ている間でも四六時中考えているんですよね。ずっと考えていると、ふとした時に何かが開いてくる瞬間がある。それを逃さないことですね。僕は何かが訪れたらすぐメモしています。

■一日の執筆時間は決まっていますか。(40代・男性)

東山 決まってはいないけれど、僕は朝型です。午前中に4時間くらい書いて、夕方に2時間くらい書いて、夜は本を読んだりしています。

■台湾に旅行に行くとして、現地の方しかご存知ないようなオススメの場所はありますか。(50代・男性)

東山 「熱炒」という、炒め料理を食べさせてくれる店が台北にも何軒かありますが、あまり高くなくてビールも自分で取ってきて自分で開けるんです。タイワニーズパブみたいな場所で、みんなワイワイ飲んでいてお祭り気分になれます。楽しいですよ。

僕が殺した人と僕を殺した人

東山 彰良(著)

文藝春秋
2017年5月11日 発売

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東山彰良さん ©鈴木七絵/文藝春秋

東山彰良(ひがしやま・あきら)
1968年台湾生まれ。5歳まで台北で過ごした後、9歳の時に日本に移る。福岡県在住。2002年、「タード・オン・ザ・ラン」で第1回「このミステリーがすごい!」大賞銀賞・読者賞を受賞。2003年、同作を改題した『逃亡作法 TURD ON THE RUN』で作家デビュー。2009年、『路傍』で第11回大藪春彦賞受賞。2013年に刊行した『ブラックライダー』が「このミステリーがすごい! 2014」第3位、第5回「AXNミステリー 闘うベストテン」で第1位となる。2015年、『流』で第153回直木賞受賞。2016年、『罪の終わり』で第11回中央公論文芸賞受賞。他著に『ラブコメの法則』『キッド・ザ・ラビット ナイト・オブ・ザ・ホッピング・デッド』『ありきたりの痛み』など。

人生はもともとグロテスクなもの。自分を汚いと思ってしまう人を肯定してあげる小説って優しいと思う。──「作家と90分」東山彰良(後篇)

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