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【追悼】所持金わずか「83円」で来日 韓国出身のロッテ創業者・重光武雄の数奇な人生

2020/01/20
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晩年はお家騒動で厳しい評価にさらされた

 一大財閥を築いた企業家として讃えられる一方、晩年は厳しく評価される局面が続いた。

 その筆頭として挙がるのが、2015年に起きた「王子の乱」や「兄弟の乱」と呼ばれたお家騒動だ。

「王子の乱」とは、重光名誉会長の長男、宏之氏(現SDJコーポレーション会長)と次男の昭夫氏(現ロッテグループ会長)、親族の間で経営を巡り起きた泥沼の争いのこと。

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 騒動が明るみに出たきっかけは2015年7月末。重光名誉会長と長男の宏之氏が突然、次男・昭夫氏と取締役6人へ解任通告を行ったことだった。それまで、日本ロッテグループを長男・宏之SDJ会長が、韓国ロッテグループを次男・昭夫現会長が担う分業体制が確立していたが、実は、「2013年頃に宏之氏が韓国ロッテ製菓株を買い増しし始めた頃から、ロッテ内の紛争の存在は囁かれていた」(韓国紙記者)ともいう。

重光武雄名誉会長の次男、重光昭夫・現ロッテグループ会長  ©AFLO

 当時、ロッテグループの関係者は筆者の取材にこんなことを言っていた。

「ふたりの性格は正反対です。昭夫氏は社交的でアグレッシブなタイプですが、宏之氏は物静かで学者タイプ。宏之氏は今回のような騒動(昭夫氏らを解任)を起こすような人物ではない。宏之氏の背後には、昭夫氏が韓国に来たことで韓国ロッテから外された親族がいると見る人は多い」

 重光名誉会長の死によりロッテの経営体制にも再度注目が集っている。しかし、「名誉会長の持ち株は少なく、昭夫会長体制でロッテグループは盤石に固まっている」(前出記者)という見方が強い。

 お家騒動の軍配は昭夫現会長に上がったが、事業継承の過程での贈与税などの問題から裁判沙汰となった。重光名誉会長は2017年10月、背任などの罪で懲役4年となり、罰金35億ウォンが科せられた。ただ、高齢であり健康上の理由から収監はされなかった。

ロッテ不正資金疑惑判決公判での重光武雄名誉会長 ©AFLO

祖国のためホテルを建てた父、贈賄で収監された次男

 今のソウル市内の中心部には、青瓦台を見渡せる高層ビルがいくつも建ち並ぶ。ロッテホテルのエピソードを思い出しながら、38階建てという高さは当時、青瓦台を見渡せる途方もない高さだったのかと驚きとともに時の流れをまざまざと感じる。

 重光名誉会長は「祖国に貢献したい」と朴正熙元大統領の指示通りホテルを建てた。時を経て、次男の昭夫会長は、崔順実氏事件と関連して、朴正熙元大統領の娘である朴槿恵前大統領に贈賄したとして懲役2年6カ月の実刑となり、収監された。親子に渡る腐れ縁だろうか。

 タワーが語るのは、企業家としての成功の証、夢の結実なのか。それとも、最後まで第一線の経営者であらんとした故郷の村の老人のような執着なのか、どちらだろう。

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