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虚淵玄と東山彰良を虜にした「台湾布袋劇」。その強烈な魅力とは

『僕が殺した人と僕を殺した人』刊行記念対談

source : 別冊文藝春秋 電子版14号

genre : エンタメ, 芸能, 読書

人形は今でも手彫り。デジタルでは味わえない風味

虚淵 ちょっとややこしいですが、『サンファン』の制作手順としては、僕が書いた脚本をまず中国語に訳し、さらにそれを台湾語に翻訳してもらって、弁士さんが語る。それにあわせて人形を動かしてもらい撮影し、その映像を見ながら日本の声優さんに芝居をしてもらう。そんな流れでした。

東山 ああ、それで! いや、人形の動きが完全に、僕が知ってる布袋劇のものと一緒だったので、一体どういうことなんだろう、と思ってました。

虚淵 動きは基本、台湾語のリズムに則って付けてもらっているので、昔ながらのものになっているはずです。しかし、日本人には馴染みのないリズムにあわせて、さらに日本語のセリフを付けることになるので、声優さんは本当に大変だったと思います。それでも、こちらの勝手な「歌舞伎だと思って、思いっきり見得を切っちゃってください」なんていう注文に、見事に応えてくれました。さすが匠の世界です……。布袋劇の人形はすべて木彫りで、表情が付けられません。アニメだったら表情で見せるところもすべて、声の情感だけで伝えていくことになる。だからこそ、あざといぐらいにオーバーアクトしてもらいました。

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虚淵 実は布袋劇の人形って、いまだに一体一体、木を手彫りしてるんです。台湾らしさっていうものがそういうこだわりからも感じ取れる気がします。だって、これがハリウッドだったら、きっとシリコンで大量生産してると思いませんか。もちろん台湾でも映像に最先端技術を注ぎ込むし、デジタル処理を加えて、衣装の素材にもナイロンを活用したりしますが……だけど、顔だけはいまだに木から彫っている。そのこだわりが、いまの僕らの記憶の深淵にじわりと訴えかけてくるという気がします。

東山 そうなのかもしれませんね。

布袋劇の人形は職人がていねいに木を手彫りして作られる
顔の造形は時代とともに大胆に変えていく

虚淵 この先、エンターテインメントの市場がCGばかりになってしまったとしたら、それはやっぱりさみしいし、その先にもう絶対取り戻せない文化ってあると思うんです。僕は、たまたま、サイン会に呼ばれて行った台湾で霹靂布袋劇に出会ったんですが、一目見て「目の前で起きてることが信じられない」と衝撃を受けました。特撮人形劇とでもいえばいいのか、これはもう、ひとの手で行なわれている魔術じゃないかとさえ思った。デジタルでは絶対に味わえない風味があるんです。

東山 ただ、そこに、ちゃんとデジタルの新しい血も入れていったところは偉い。原始的なだけでは、若い子たちはついていかなかったでしょう。