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処理能力、耐久性――トップに君臨する条件とは

 某大手塾グループの広報担当の50代の男性は次のように指摘する。「昔は、どんな参考書や問題集を使って、どんな風に志望校対策をするのかを自分で考えたもの。どう段取りを組むかというところまでを含めて受験勉強だった。結果的に総合的な人間力を試すことになっていた。入試の結果には、単なる知識量や学力だけでなく、作戦力や実行力、そして執念までもが反映されていた。しかし今、子供たちは塾に与えられたものをひたすら消化するだけになっている。それが中学受験ならまだわかる。しかし大学受験までもがそうなってきている」。

 もともとの処理能力が高く、大量の課題に取り組み続ける耐久性があり、与えられた課題に対して疑いを抱かない能力があることが、現在の学歴ヒエラルキーのトップに君臨する条件だ。

「東大合格」の強迫観念にとらわれ、成績が落ちる子も……

 ただしそれだけ負荷は大きい。「鉄緑会は、もともと能力の高い子が東大理IIIに確実に合格するための塾であり、そのほかの学部を狙うならあそこまでやる必要はない」と、ある鉄緑会出身者は言う。

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 また某進学校の教諭は次のように証言する。「ある生徒は鉄緑会と学校の勉強の両立に失敗し、どちらも成績が落ちた。もともと力がある子だったので、学校としては学校の勉強に専念することを奨めたが、学校よりも鉄緑会が大事だと本人は言った。結局学校も塾も辞めることになった」。鉄緑会にしがみついていないと東大に合格できなくなるという強迫観念にとらわれてしまったのだ。

 学力最上位層が集い、切磋琢磨し、現役の東大医学部生から直接受験指導を受ける場としての鉄緑会には、大きな存在意義がある。もともと地頭のいい生徒たちに有名進学校の環境が与えられるだけで「鬼に金棒」である。さらに鉄緑会に通えば「鬼に金棒にヘルメット」といった具合。盤石の大学受験となる。鉄緑会に通うことは、そもそも実力のある子供の「確実な合格」を「絶対の合格」に近づける保険のようなものだ。

 しかし、子供たちみんなが鉄緑会やサピックスに通う必要はない。塾がみな「ミニ鉄緑会」や「ミニサピックス」になってしまったらますます、「処理能力が高く、耐久性があり、疑いを抱かない能力をもつ子供」ばかりが優位な社会になってしまう。

 そんな状況へのアンチテーゼとして現在「大学入試改革」が検討されているわけだ。しかし結論だけ言えば、現在検討されている程度の小手先の改革では、鉄緑会に通うような学力最上位層の優位は変わらないだろう。

出典:文藝春秋オピニオン 2017年の論点100

おおたとしまさ(ジャーナリスト)