大学選びにおいて、親世代の価値観が子世代に通用しなくなってきている。一方で各大学は自らのブランド力を高め、より多くの学生を獲得すべく様々な方策をとっている。有名大学でさえ、昔のブランド力にすがっていては生き残ることが難しいのが現状だ。大学ブランドの変化から時代の変化が見えてくる。
(出典:文藝春秋オピニオン 2017年の論点100)
津田塾大が「2017年の勝負」に出た理由
大学受験では親世代の感覚がおよそ通用しないケースが見られる。親世代が学生だったころ(おそらく、多くは1980年代)と現在では、私立大学の立ち位置が変わっているからだ。
たとえば、女子大である。埼玉県内に住む受験生を持つ家庭で、娘が津田塾大、明治大に合格したとする。親は津田に通ってほしい。しかし、娘は明治に行きたいという。その理由は明治のほうが家から近い。学びたいテーマがある。元気な女子が多い。男子と交わり楽しい学生生活を送りたい。それにトイレがきれいでパウダールームまであるから、という。
もちろん、津田塾大に魅力がなくなったというわけではない。少人数で行き届いた教育はいまでも高い評価が得られている。とくに語学の授業には定評がある。就職実績も良い。しかし、1990年代以降に広がった「女子大ばなれ」の影響を受けてしまった。両方受かって、立教大や明治大を選ぶ女子学生が出てきたのである。それが遠因となって、1980年代まで人気が高かった津田塾大、日本女子大、東京女子大、神戸女学院大も難易度が下がってしまった。
だが、津田塾大も指をくわえて見ているわけではなかった。2017年、勝負に出る。千駄ヶ谷キャンパスに総合政策学部を新設する。東京体育館の目の前で、かつて津田スクールオヴビズネスがあったところだ。学部長には萱野稔人氏。現代思想が専門で、津田のなかではもっともメディアへの露出度が高いスター教授だ。巻き返しが功を奏して、総合政策学部は看板学部となるだろうか。
「在野」の早稲田はいつしか「官僚養成」ブランドに
女子大がやや苦戦する一方、早慶上智、東京理科大、そしてMARCH(明治大、青山学院大、立教大、中央大、法政大)はブランド力を堅調に維持している。青山学院大は文系学部すべてを相模原から青山キャンパスに移したので、埼玉、千葉の受験生を取り戻した。
では、中央大の多摩キャンパスはロケーションでハンディを抱えていることになるだろうか。通学には都心から1時間半は要するので、埼玉、千葉、神奈川の受験生はどうしても敬遠してしまう。しかし、学生の出身地をみると首都圏以外が4割近くいる。早慶MARCHのなかでもっとも多い。これは、多摩地区の家賃が都心よりも安い、大学周辺は自然に囲まれて喧噪感がない、という背景がある。中央大は全国区というブランド力を確立していた。
さて、早慶である。大手予備校によれば、両方受かった場合、慶應を選ぶというデータが出ている。これは、慶應のほうが早稲田よりも大手金融機関、商社、メーカーなどへの就職実績が良いからといえる。たとえば、みずほフィナンシャルグループ就職者は慶應174人、早稲田118人(2016年)となっている。
では、早稲田の強みはどこか。「在野」「反骨」という建学精神とは裏腹に公務員になる学生が多い。国家公務員合格者(総合職、一般職)464人は全国トップ。東京都1類118人も群を抜いている(2015年)。官僚養成大学としてのブランド力を築いているのだ。