大学受験を考える上で、中学や高校の学歴と同時に、「どこの塾に通ったのか」が重要な指標となっている。そんな中、東大理III合格者の約半数が通う塾があるという。ジャーナリストのおおたとしまさ氏が、その正体に迫る。
(出典:文藝春秋オピニオン 2017年の論点100)
学歴よりも「塾歴」――中学受験の「ひとり勝ち」塾
受験シーズンを終えるたびに、多くのメディアでは東京大学をはじめとした難関大学合格者数を比較した中学・高校の学歴特集が行われる。しかし実際は学歴よりも「受験生がどこの塾に通ったのか」という「塾歴」の現実が見えてくる。
首都圏に住む、小学生の子を持つ親なら、「サピックス」の名前くらいは聞いたことがあるはずだ。中学受験のための進学塾として、日能研や四谷大塚を押しのけ、圧倒的な存在感がある。
2016年開成中学校の定員300名に対し、サピックスからの合格者は251名。8割以上を占める。開成は396名の合格者を出しており、実際の占有率はこれより下がるが、それでも開成生の6割以上はサピックス出身ということだ。
開成が定員より96名も多めの合格者を出すのは、主に筑駒(筑波大学附属駒場中学校)にも合格した受験生のうち、そちらに流れる人数を勘案してのことである。その筑駒においては、募集定員120名、合格者127名に対し、サピックスからの合格者は86名。筑駒生の3分の2以上がサピックス出身ということになる。
ここまでくると、中学受験において最難関校を受験するつもりであれば、サピックス以外の選択肢がかすんでしまうのも無理はない。結果、ますます学力上位層がサピックスに集まる。まさに「ひとり勝ち」状態だ。
東大理III合格者のほとんどが通う塾
大学受験のなかで東大受験に特化した鉄緑会に通うのは、サピックスの中でも最上位クラスに在籍し最難関校に合格したような生徒ばかりだ。鉄緑会には指定校制度があり、それ以外の学校の生徒は入会選抜試験を受け、指定校の生徒たちと遜色のない学力があることを証明しないと入会できない。鉄緑会の指定校はたったの13校。開成、桜蔭、筑駒、麻布、駒東、海城、筑附、豊島岡、雙葉、白百合、女子学院、聖光、栄光と超名門進学校ばかり。2016年9月現在の鉄緑会ホームページによれば、開成生の約33%、桜蔭生の約44%、筑駒生の約54%が鉄緑会に通っている計算になる。
鉄緑会の東京本校は東大および難関大学医学部を主なターゲットとしている。大阪校はさらに京都大学も含めている。
東京本校の高3の生徒数は例年600名程度。同じく大阪校の生徒数は250名程度。東京本校と大阪校を合わせると、2016年春の東大への合格者は332名、京大への合格者は74名、国公立大学医学部への合格者は402名(東大理III54名、京大医学部33名を含む)になる。東京と大阪合わせて850名ほどいる生徒のうち、浪人生も合わせれば、721名が東大もしくは京大もしくは国公立大学医学部に合格している計算だ。さらに私大の最難関である慶應義塾大学医学部にも64名の合格者を出している。
特に注目すべきは、東大理III(医学部)の定員における鉄緑会出身者の占有率だ。日本の受験ヒエラルキー最難関のなんと半分以上が鉄緑会の出身者で占められているのだ。理IIIに多くの合格者を出す学校といえば、灘、開成、筑駒、桜蔭が有名だが特に理III合格者だけを見ると、そのほとんどが鉄緑会出身であることが、過去のデータからわかっている。
ごく一部の塾に受験システムそのものが完全に分析され攻略されている。もはや「受験工学」の確立と言っていい。