1ページ目から読む
2/3ページ目

人材の見極めを、たった6000サンプルで判断しようという馬鹿の所業

 そもそも論として、例えば完全情報ゲームである囲碁の世界で、人工知能が世界屈指の名人に勝ってしまうのはあり得る話ですし、思ったより早かったなと思ってもそう不思議なことでもないのです。一方で、企業で活躍できる人材の見極めを、たったの6000サンプルで判断しようというのは馬鹿の所業ですし、経済環境も違えばあてがう仕事への適性も異なる人たちが公平に評価されてきたのかさえ不明です。人材を評価する際、営業に配属された人と人事や企画、総務では、企業に対する貢献の在り方も違えば必要とされる適性も異なるのは当然ですし、組織内での仕事は人と協働する前提なのだから人間性に踏み込まない限りきちんと相対的に評価を下すことなどできない、というのも当然のことです。

中国・浙江省で行われた柯潔九段とアルファ碁の対決。アルファ碁の3戦全勝に終わった ©getty

 一方で、いま日本企業の採用で主流であるSPIなどは、新卒対象であれ中途採用であれ、入社後の人材の活躍度合いとはさほどの相関はないことが分かってきています。唯一、SPIでまったく適性が感じられず頭が悪くて人間性もクズだと分かるケースがあって、そういう「足切り」で使われることが多いようなのですが、これだってグループディスカッションや経歴で「何かに続けて取り組んだ経験が見られるか」で判定がつくことも分かって、そもそも組織にとって採用とは何なのかという宇宙の起源みたいな論争になっている状態です。

ADVERTISEMENT

 そこへ、たいしたサンプル数も根拠にできていない人工知能が採用の現場に導入されたと大々的にメディアで報じられると、たっぷり石鹸を含んだ大きな泡が世間に漂っているように思えるわけですね。どうせお前らプログラム組めば一瞬で何かができると思って報じてるんだろう。そんなわけがあるか。せいぜいデータマイニングという基本的な作業を自動化する予測分析やロジスティック回帰分析などの古典的なツールを詰め合わせて、ざっくりと人工知能と言ってるだけじゃないのかね、と。