「今ならギリギリ間に合うと今回の決断をしたのです」
フジテレビの日枝久会長は、ノンフィクション作家・森功氏のインタビューにこう語った。
今年80歳になる日枝氏は、フジ・メディア・ホールディングスとフジテレビ両社の会長を務めている。この5月、会長として4人目の新社長を指名し、自らも6月の株主総会をもって会長を退くことが明らかになった。
いまから4年前、日枝氏は世間を驚かせる決断をした。フジテレビの社長に数々のドラマでヒットを飛ばしたスタープロデューサーの亀山千広氏を抜擢したのだ。亀山氏は当時56歳。すでに視聴率低迷に陥っていたフジの改革を託された。
日枝氏は当時、森氏のインタビューに答えてこう語っていた。
「亀山君には、なんと言っても実績がある。お金を出しても見に来て下さる映画の観客動員の実績があるし、フジテレビの黄金期の編成部門にもいた。いろんなことを身につけている」(「文藝春秋」2013年10月号)
それから4年。結果として亀山氏の抜擢は失敗に終わった。年間視聴率は在京民放キー局5社中4位に落ち込み、得意なはずのドラマ部門も復活させられなかった。
日枝氏は今回のインタビューでこう語る。
「この4年間はドラマの立て直しができなかった。これは彼が悪いというより、時代の流れでしょうね。『海猿』だとか『踊る大捜査線』の時代と今は違う。シニア時代の流れがありますから」
悪いのは視聴率だけではない。社の業績も振るわなかった。
「気が付くと今年は5期連続の減収減益、このままでは死んでしまう」
そう考えた日枝氏は、亀山氏を呼んで引導を渡したという。
「彼はやっぱり苦しかったんでしょうね。『結果責任はあるから、今回は外れてもらうよ』と言い渡すと、『ありがとうございます』と言い、肩の荷を下したようでした」
日枝氏自身も任命責任を取った。日枝氏の社長就任は昭和63年のこと、29年間君臨し続けたトップの座からついに退任することにしたのだ。
だが新社長の宮内正喜氏は亀山よりひと回り上の73歳、しかも、かつて日枝氏の秘書を務めた元側近で、傘下のBSフジからわざわざ呼び戻した。
会長を退任する日枝氏も完全に退いたとは言えない。取締役相談役、フジサンケイグループ代表として残ることで、また「院政ではないか」とさっそく批判を浴びている。
そうした院政批判に対しても、日枝氏は森氏に率直な胸の内を明かしている。
日枝氏へのインタビューの全容は「文藝春秋」7月号に掲載されている。