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球界最高のサウスポーになりたい!

 決してビッグマウスではない。入団1年目の昨年、交流戦突入となる5月に待望の一軍合流を果たし、12度の先発機会に6度のクオリティースタートを記録。打線の援護のなさや、降板後救援陣がリードを守れなかったことで残した結果は2勝6敗とかなり物足りない成績だったに違いない。ただその成績以上に他チームの打者たちは将来大物になるであろう慎之介のスケールのデカさを直に感じたはずだ。

 今季も左肘遊離軟骨除去の手術で一軍合流が遅れたものの、キャンプからしっかりケアを施し、万全を期して5月6日の讀賣戦に初登板。最速147キロのストレートを記録し、完全復活をアピールした。ここで冒頭の話に戻るのである。もうご理解頂けよう。大谷翔平、則本昂大、千賀滉大といった速球派投手には目もくれず、今や球界随一ともいえる剛球サウスポー菊池雄星に挑戦をしようとしているわけだ。

 まるでブルース・リー主演映画『死亡遊戯』でのレッドペッパータワーの各階に待ち受ける敵を一人一人倒す場面の如く、ターゲットとするサウスポーを乗り越えていくのが今後慎之介がライフワークとする業なのではないか。

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 ここまで残した成績には決して本人も満足してはいないはず。ただし敵味方に対し、慎之介の高排気量のポテンシャルは既に実証済だ。「立ち居振る舞いが既にベテラン」と中日OB川上憲伸氏が評せば、「柳(裕也)とともにチームを牽引する投手に必ずなる」と太鼓判を押したのが星野仙一東北楽天球団副会長。皆、彼の力量を高く評価している。

 交流戦を終え、今後同じセ・リーグでは田口麗斗(巨人)、クリス・ジョンソン(広島東洋)ら、左の好投手との指名対決も首脳陣に直訴すると思われる。そのステージもなんなくこなすことができれば自然と目は世界へと向けられることであろう。

ライバルは世界全てのサウスポー

 メジャーリーグにはクレイトン・カーショウ(ロサンゼルス・ドジャース)、クリス・セール、デビッド・プライス(ともにボストン・レッドソックス)ら、名前を聞くだけで震え上がる、現時点では挑戦すら叶わない次元の高いステージでプレーするサウスポーの猛者が揃っている。

 しかし常に野球道のど真ん中を走り続けてきた慎之介のこと、目標が高くなれば高くなるほど、その頂を目指し技量も力量もアップしていくはずだ。そうなれば川上憲伸、福留孝介(現阪神タイガース)、チェン・ウェイン(現マイアミ・マーリンズ)に続く、生え抜きではチーム4人目となるメジャーリーガー誕生も夢ではない話といえる。あくまで想像だが、慎之介はいつか世界一のサウスポーと称されることを野球人生の最終目標と考えているのではないだろうか。

 運がよいことに同僚には大野雄大、ジョーダン・ノルベルト、ラウル・バルデスといったタイプの異なるサウスポーが在籍。そして忘れてはならないレジェンド岩瀬仁紀が現役で一緒にプレーしていることも慎之介にとっては良き教えを請う場となろう。

 日々勉強、日々進化。末恐ろしい19歳である。まずは16日の西武戦でお手並み拝見だ。菊池に当たって砕けろではなく、がっぷり四つに組んだ力相撲を是非期待したい。それだけの力はある。そう信じ、来たるその日を待っていたい。そして伸び行く姿を温かく見守っていきたい。

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