奥村 それだけ嚙まれたら、スパイダーマンみたいに能力がついたらいいのにな。
玉吉 ……『ムカデ人間』って映画はあるけどさあ。ムカデの能力ってなによ。
奥村 手足がいっぱい出たり。
玉吉 うわー気持ち悪い。バックするとき手足が絡まってあわあわしちゃうなあ。ムカデって基本、前進しかしないけど。そういうところはちょっと可愛いかな。
奥村 ついに可愛いと思えるようになったか。
玉吉 なんか女性っぽいんだよね、配色といい、理性より感情で来るというか……。情念を感じる。雄も雌もいるんだけど。
奥村 それはアンタの女性観の問題じゃないか? あの家の気密性がよければムカデも入って来れないんだろうけど、隙間だらけだからな。
玉吉 この間の台風15号、千葉があまりにもひどいから目立たないけど、伊豆もひどいよ。ベランダの木製手すりとか、うちの外側の木製パーツは全部消し飛んだから。倒木もすごいし、近くの道は崩れて道幅が半分しかなくなっていたよ。夜に走ってたら絶対落ちるね。
奥村 コワー。あんだけ何もない山の中だけど、さすがに前に暮らしてた漫画喫茶よりはマシなんだろう?
玉吉 うーん、どっちもどっちかなあ。普通、漫喫の方がぜったいイヤだって思うだろうけど、人間って周りに人間がいるほうがいいよ。ムカデより。
奥村 そりゃそうだけど、漫喫で隣に変なヤツがいたら大変だろ。
玉吉 それはそうだね。
奥村 都会にもう一度引っ越すっていう選択肢はあり?
玉吉 いやーもう山に慣れちゃってるからね。昨日久しぶりに吉祥寺のヨドバシカメラに行ったら、目を回しちゃった。人が多すぎて情報量が多すぎて、目の焦点が合わなくなって、泥のように疲れたよ。
奥村 尋常じゃないくらい信号もあるしな。いったん田舎のペースに慣れたら、そりゃ辛いな。
玉吉 都会で暮らすのはもう無理かも。
奥村 だけどアンタんとこ行くのが大変なんだよ。街灯もない山道で夜は真っ暗だし、ろくにガードレールはなくて落ちそうだし、切り返さないと曲がれない急カーブもあるしよ。
玉吉 ウチに来るのに何度も迷ってるよね。
対談の続きは『日々我人間(2)』でお楽しみください。
単行本発売に際して、玉吉さんからメッセージが届きました。
毎週綱渡りの入稿が続いて担当はハラハラしていますが、週刊文春での連載がこのまま順調に続けば、『日々我人間(3)』が出るのは2023年頃。還暦を迎えた玉吉さんの伊豆ライフはどんなふうに続いているのか、いやそもそも伊豆にいるのかいないのか。気長にお待ちいただけたら幸いです。