5月に経済産業省の次官・若手が発表したレポート「不安な個人、立ちすくむ国家~モデル無き時代をどう前向きに生き抜くか~」が話題を呼んでいる。

 同レポートでは、医療や年金といった社会保障制度が制度疲労に陥っており、これからの時代を生きる、特に若い世代の活力を妨げるものとなっていることを、経済産業省の若手官僚が東京大学や有識者との意見交換を通じてまとめたもので、ネット上にも公開されている。

 このレポートに対しては、若手官僚による、率直で勇気ある問題提起だと評価する意見がある一方で、レポートでは何ら具体的な解決策が示されず、自らの無力を吐露するだけの「嘆き節」にすぎないと酷評する向きもある。

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 しかし、同レポートでさらりと触れられている「40歳定年制の導入」は、現代の閉塞感にあふれた日本社会を根幹から変革する可能性のある提言と受け止めたい。

日本は定年を70歳、75歳と延長していく方向だが……

 急速に高齢化が進む日本では、現在企業などで働く勤労者の定年制度を60歳から65歳へ延長し、これをさらに70歳、あるいは75歳へと延長していく方向性にある。これまでのように60歳以降の人生を、年金を給付することで支えていく世の中の仕組みが通用しなくなっているからだ。

 今の60歳は元気で活力もあるのだから、60歳以降も社会でバリバリ活躍してもらいましょう、との前向きで明るい発想から来るものであるが、企業内で60歳以降も雇用を続けることに果たしてどんなメリットがあるのだろうか。

40歳になれば「会社に役立つ人材」かどうか選別できる

 多くの企業では社員が40歳を迎える頃になると、その社員が「会社として今後役に立つ人材」であるかを選別することになる。どんなに優秀な社員であっても、出世は「運」の要素がある。学生の頃の不確かな知識で入社した会社が、結果的に自分には「あわない」ということもよくある話だ。

 ならば、転職という選択肢があるはずなのだが、新卒採用を基本とする日本社会の中で転職するということは、転職先での出世にもまだまだ大きなハンデがあり、とても勇気がいる行動であることは、いまだ日本社会に厳然と存在する事実だ。

 いっぽうでやっかいなのは、日本の会社、特に上場会社などの大企業では、よほどの「やらかし」をしない限り、社員は会社を馘になるということがない。社員にとっては、転職をしてあえて大きなリスクを負わなくても、我慢さえしていれば会社が一生面倒をみてくれる、という「ヤドカリ」的な発想を多くの中高年社員は抱いている。