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整形&日焼けした顔は「生きたフォトショップ」

 こうしたハーフ・タレントの枠を「ショーンK」は100点満点で満たした。それのみならず、ハーバード、ソルボンヌ、国際社会、インテル入ってる…など、白人の勝ち組を想起させる記号をことごとく羅列し、あげくには(おそらく)整形して欧米風に顔形を修正し、濃い目の日焼けで縫合部が見えないように「生きたフォトショップ」をかけていたのだ。かつてJ-WAVEの編成局長が「トルコ人宇宙飛行士」に引っかかったように、テレビ業界のプロデューサーたちも視聴者たちも、「ショーンK」という存在にそれぞれ自分たちが見たいものを投影し、愛でた。「ショーンK」は自身の虚像をつなぎとめる数々の糸がひとつもほころびぬよう、紳士的でそつのない人格を演じ続けた。WIN-WINだった、はずだ。

 しかし「ショーンK」が社会に影響力を持つキャスターのような要職に登れば登るほど、ほころびが出た時のクラッシュもまた大きい。『ユアタイム』が滑りだした後で経歴詐称・ハーフ詐称がばれていたならば、番組そのものが打ち切りになっていただろう。文春砲が早めにぶっ放されていたのは番組にとって不幸中の幸いだった。その後『ユアタイム』は「ショーンK無き時代」という喪が明けて、他局のニュース番組に比べて異色ながらも独自の存在感を打ち出しはじめている。市川紗椰のマニアックな相撲解説、モーリーの突撃路上ルポなども味わいを発揮し、日によっては数字がいい。市川紗椰は今では、ほとんど原稿読みを噛まない。若い男性と女性全般の受けがいいことも視聴率で打ち出されている。おそらく9月いっぱいでも打ち切りにはならない。

日本人の英語への苦手意識が生んだ“悲劇”

 最後に付け足したい。テレビには容貌の可愛さやバラエティー的なリアクション芸の巧みさがマストになる場面が多い。したがって今後もハーフ・タレントは増え続け、時間帯によっては「ハーフづくし」で番組が構成されるだろうことは想像に難くない。ただ、その時にひとつ覚えておいてほしいことがある。フルにバイリンガルで専門知識を持ち、才能に満ち溢れたハーフやクォーターがすでにいっぱいおり、発掘されないまま放置されていることを。市川紗椰やモーリーはそれぞれがどっしりとした教養と思考能力を持っている。それは今後の『ユアタイム』でも時間の割当次第で存分に発掘できる、隠れた資源だ。市川紗椰は例えばジェイムズ・ジョイスの全作品をほぼすべて読破しており、芥川賞候補の小説も発表前からまめに追いかけている。ぼく自身は大麻やコカインだけでなく、アメリカのトランプ現象からボスニアに浸透するイスラム原理主義に至るまで幅広く解説できる。お互いに大関・横綱クラスの知性を持っているので、あとは土俵に上がるのを待つばかりなのだ。かわいいだけ、白人っぽいだけの二人ではない。

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 また、「帰国子女」と呼ばれる海外経験のある日本人も年々増加している。日本のほとんどの企業では英語が得意な幹部は少ない。したがって「帰国子女」たちの真の能力を把握できなかったり、やっかみが邪魔をする。「帰国子女」たちは本来の力を発揮できる役職が与えられず、末端で通訳や海外からの電話番、メールの翻訳、代筆などの雑務に回されることが圧倒的に多い。だが本当は海外経験豊富なバイリンガルたちこそが、日本語オンリー、日本在住オンリーの人々よりも的確な判断を下せる場面が多い。

 英語への苦手意識から逃げまわり続けた世代が人為的に生み出した「失われた20年」。それは日本語の中へと鎖国した20年分の機会損失だ。逃げまわった上司たちは今後、大量に定年退職する。誰も責任を取らない。その負の遺産を引き継ぐ「帰国子女」たちはそれにかわって、徐々に時代の主役へと押し上げられていく。実際にグーグルジャパンに行くと、完全に国際人の天下であり、日本語しか話せない日本人社員との間に歴然と序列ができている。これは近未来を暗示している。日本の大企業がことごとくオセロゲームのように反転する日が来る。

 これまで「帰国子女」と呼ばれ、お飾りの扱いを受けた国際人たちが決定権を握り、人事権も握る。その結果、「国際人」の上流社員と「国際的ではない日本人」の下働きへときれいに二分化する時代が来る。グローバリズムはそれを要求する。その頃には、かつて「ハーフ・タレント」として日本に媚を売り、おもてなしで叩き上げた面々が経営者となっており、「合理的」な経営判断を下す。少数のエリート社員は全員バイリンガルかトライリンガル。日本語しか話せない者は非正規社員。「純正日本人=純ジャパ」はバイリンガル上司に気に入ってもらおうとお互い競争する。ホラッチョたちに依存した日本の行き着く先は新たな「segregation=人種隔離」の社会に他ならない。